登山での写真撮影は遭難リスクの塊。単独行で遭難しないための準備と心得え

登山の単独行での遭難

登山をしながら美しい風景の写真を撮る。そんな山行が当たり前のようになり山岳写真を専門に扱うものとしては嬉しい限りです。多くのブログを拝見する限り、かなりの重量を背負って山に登り写真撮影を楽しんでいる方も多いのではないかと思います。

しかし登山に山行以外の荷物を持っていく、山で写真を撮るということは遭難リスクを背負うということです。単独行ならなおさら。言い換えると不要な荷物を背負い、無駄な行動でタイムスケジュールを圧迫してるとも取れます。

職業として登山をして写真を撮り、周辺環境の調査もしている経験から単独行のカメラマンが遭難のリスクを減らすためにできることをまとめます。

運動を習慣にする

運動を習慣化する

遭難する原因は何か。それは判断力と注意力の低下です。登山はまったりとした印象がありますがその実、集中力の維持が求められます。ルートの確認、足運び、浮石、タイムスケジュール、心拍数、食事のタイミング…と上げればきりがありません。

疲労により注意力が散漫になれば滑落し、ルートファインディングが疎かになれば道迷いというリスクが跳ね上がります。そうならないためにも山行中に集中力を維持し続けるだけの体力が必要です。

特に心肺機能は集中力と直結するのためランニングなどの有酸素運動は日常的に行いたいです。ある程度の身体ができあがってくれば毎週のように山に行くことができ、登山で体力の向上・維持ができるという好循環になります。

運動習慣のない人が単独でカメラを持って登山というのは流石に無理があります。

登山届を提出する

基本中の基本。特に単独行は提出しておかないと山に入ったこと自体気づかれないため遭難時は捜索すらされません。岐阜の北アルプスでは条約で提出義務があるため未提出は罰金の対象です。

しかし現実問題として登山届のポストがどこにあるのかわかりづらいことも多い、山行計画をその場で書くのが大変ということもあるので、自宅で登山計画を寝るときにCompassなどを利用して一緒に提出しておくとよいかと思います。

朝一番で登山を開始する

登山は朝イチで出発

初めての山では出来得る限り早い時間に登山を開始します。ルートが不安な人は少し人が増えてきてからスタートすれば道迷いのリスクを軽減できます。

逆にやってはいけないことは午後から登ること。3000m峰の登山で午後からアプローチ開始する人はタイムスケジュールが破綻している初心者か、超上級者のどちらかです。

登りルートで人に会うことは少ないため道迷いした時のリカバリーが難しくあっという間に夜になり行動不能になります。

地図とコンパスとGPSを携帯する

コンパスと地図とGPSを持ち歩く

地図は自宅でプリントするよりも本屋で購入できるマップを買った方安全です。防水加工されているものがほとんどなので雨天時に雨でしみてルートが見えなくなることがないためです。ルートを確認するときは方角がわからないと意味がないので地図とコンパスはセットです。

しかし単独行ではもう一つ装備を使いしたい。それが高精度GPSです。
地図が読めなくてもGPSならカーナビが理解できる程度の知識でルートファインディングすることができます。

登山の開始からログ計測を開始すると自分が歩いたルートが地図の上に線で書き込まれていくので、道に迷ったときはそれを見ながら逆ルートを辿れば確実に登山道に戻ることができます。

正しい道を歩いているつもりでもウェアに枝が1回でも当たったら一度ルートを確認したほうがよいです。メジャーな登山道はかなり整備されていますので、木々の整備がされていないなと感じたら道を外れている可能性があります。

iPhoneなどのスマートフォンでアプリケーションをインストーすればGPSの代替にすることもできますが、緊急時の連絡手段や信用性の問題から私はGARMINのGPSMAPシリーズにTOPOの山岳地図をインストールして愛用しています。

少し高い買い物ですが、自分の歩いたルートであれば確実に戻ることができるという安心は投資する価値があります。

常に携行食を食べられるようにする

携行食とハイドレーション

登山でザックから荷物を取り出す行動は激しく体力を消耗します。疲れてくると背負い直すのが辛いことから、携行食を摂取するためにザックを下ろして取り出すことはしなくなる可能性が高いです。

そのままエネルギー不足で行動を続けると危険です。対策としてフロントバッグやチョークバッグなどを装着して常に糖分補給できる環境にすることが大事です。水筒も行動用にハイドレーションを使うことでこまめな水分摂取が可能になり疲労回復、脱水症状を防ぐことができます。

初めての山では移動中の撮影は行わない

私は職業として山岳写真を撮るため、基本的に移動中のスナップ撮影をするということはありません。

理由は2つ。

フラッグシップクラスのボディと大口径のレンズの組み合わせを持ち歩くと危険で登山のパフォーマンスが落ちるといこと。もう1つが撮影に熱中してタイムスケジュールが狂うこと。

ただでさえ初めてのルートなのに地図と目安時間だけを信用するのは危険極まりないです。天気が崩れたりとどのようなトラブルがあるかわかりません。

しかし行動中にいい景色に出会ったら撮影したい気持ちもよくわかります。そうなると一眼レフではなくウェストベルトのポーチやチョークバッグ、フロントバッグに収納できる小型ミラーレスカメラがおすすめということになります。

山岳写真のロケハンが済んでいる山ではコットンキャリアカメラベストに一眼レフを装着して登ることが多いです。首からカメラをぶら下げて歩くのは体力の消耗・バランスが崩れる等の問題からおすすめできません。

撮影に入る前にテント場で荷物をデポする

テント場で荷物をデポする

テントや寝袋などをデポしてから撮影に入ります。隣の山など少し離れた場所が目的地ならばテント場の料金を払う際に山荘スタッフに一言言っておくと万が一のとき警察と連携を取ってくれます。

写真撮影のためのタイムスケジュールを立てる

奥丸山からの槍ヶ岳

分かりやすい例がありましたので、以前紹介した新穂高登山口から槍ヶ岳のルートで、奥丸山の撮影をする時のスケジュールでご紹介します。

目的は奥丸山から夕暮れ時の槍ヶ岳を撮影すること。新穂高口を午前6時に出発してゆっくり歩いて午後2時には槍平小屋に到着します。

山荘のテント場でテントを張り、必要ないものをザックから取り出して奥丸山へアプローチ開始。登り1時間半・下り1時間でスケジュールを組み立てます。

槍平小屋から奥丸山

距離は2kmながら標高450mを一気に駆け上がる直登ルート。しかも人があまり歩かない登山道です。

17時には撮影を切り上げて槍平小屋のテント場に戻ります。

大事なことは使用する登山道のルート難易度を考えておくこと。槍平小屋から奥丸山のルートはほぼ直登ルートであり悪路ですので下りでは滑落の危険があります。日が暮れた場合は使用したくないルートです。緊急事態や暮れてしまった場合に備えてビバークも検討します。

このように事前に組んだスケジュールの通りに行動出来ているかの確認が大事です。これは自分の体力の把握と地図を正確に読み取る経験が必要ですので過信は禁物。万が一に備えて1日2日は耐え忍ぶことができる装備は持ち歩きます。

撮影にはビバークできる装備を必ず持っていく

ビバーク用のツエルト

登山ではテント場や山荘で夜を過ごすのは大前提ですが、何かしらのトラブルでそこまでたどり着けない可能性があります。無理して夜間に登山道を歩くのは危険ですので、その場にとどまり朝を待つビバークは否定されるものではないと考えています。

テントで荷物をデポして撮影ポイントに向かうときでも、万が一動けなくなったときの装備は必ず持って行きます。1食分の食事とツェルトと防寒具とヘッドライト。これは必須です。

天気の崩れを感じたらすぐに引き返す

レンズ雲

山の天気の崩れ方には兆候があります。レンズ雲や笠雲など分かりやすい形ものもあれば、うろこ雲などわかりづらいものもあります。ベースキャンプを設置してから向かう撮影で夕方以降ならば、雲が出てこちらに向かってきているなら迷わず引き返します。

アプローチで登ってきた登山道も晴天と雨天で難易度がまるで違います。

持っていく撮影機材には順序がある

普段使っているボディとレンズの組み合わせが写真撮影の安定感でいえば間違いないのは確か。しかし軽量小型化が基本の登山のパッキングでは撮影機材の容量というのは相当になります。基本的には必要最小限に絞るべきです。

山岳写真は余裕を持ってその山に登れる体力と経験、技術、があることが前提です。登れるかどうか不安な人はカメラは持って行かないほうがいいと思います。スマホでの写真を楽しんで体力がついてからまた山にくれば楽しく撮影することができるでしょう。

最初はボディとレンズ1本から

写真撮影をしながらの登山に慣れていない人はまず最小構成から。三脚はもってのほかです。あれは重量バランスを崩すので荷物の中で一番厄介なやつです。

極寒地や超高所のような極地でなければEVFのミラーレスが小型で高画質でいいのではないかと思っています。撮影機材は小型軽量は正義です。

撮影機材を増やしていくのはそれから

徐々に体力がつき重たい荷物を背負えるようになり、登攀技術や判断力がついてからレンズの追加、三脚の携行を検討していきます。

登山は数十キロの道のり、数千mの標高を長時間かけて登るアクティビティですので行動中の1つのミスが遭難に直結します。フォトグラファーとして、せっかくだからいい写真を撮るためにいい機材を持っていきたいという気持ちはわかりますが、そこに至るまでにはゆっくりと時間をかけて身体を作っていく必要があります。

登山では遭難リスクは常に考えて行動を

単独行は遭難リスクを考えて行動する

私が単独で登山をするときに気をつけていることと準備についてまとめてみました。

正直なところ遭難は単純に確率の問題だと思っています。私の同僚のクライマーも山岳写真家も山で亡くなっているので、どれだけ気をつけても避けられないものだと実感しています。私が生き残っているのはただ運がいいだけです。

しかし準備と知識・心得で確率を少しだけ下げることはできますので、出来る限りのことはしています。

リスクがついて回る山では登山者は臆病であることがちょうどいい距離感だと思います。

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