経験者から見た地方創生事業としてのクラウドファンディングの功罪

クラウドファンディングの功罪

地域活性化・地方創生の手段としてクラウドファンディングが注目をされています。経済産業省や信用金庫などでは積極的に後押しをしています。私個人としても有効な手法であるとは思っていますが、良い部分だけが表に出すぎていると感じています。

個人やお店・企業としてのクラウドファンディングであるならば各々の強みを活かして資金調達を行う事が可能ですが、これが地方の自治体という広い範囲になると勝手が違ってきます。

例えば地域の中に飛び抜けて売れているお店や宿、観光地があったとしても平等性という考えからそこで集客することは出来ないため「地域」の魅力を作るのが難しくなります。

限界集落と言える地で2回の地方創生系のクラウドファンディングを行った経験から言えること。それは資金を集めるにはそれなりのWEBやマーケティングの知識、技術が必要であり、それを地方自治体の限られた人たちだけで行うのは難しいということ。そして甘い汁を吸いたい不審な人たちが跋扈していること。

特に最近は不穏な提案を受けることがあまりに多すぎることから、クラウドファンディングは安易に手を出すべきものではないと思うようになりました。

それを手がけてきたクラウドファンディングを使い考察します。

登山道整備のクラウドファンディング

第一回乗鞍新登山道整備

これは整備が行き届いていない登山道の入り口にバス停ができるということで遭難事故が起こることが想定できるということで立ち上げたクラウドファンディングです。

管理している地元住民が整備に使用できる資金がなく毎年草刈り程度しかできないという背景があります。なぜその状況で登山道入り口にバス停作っちゃたのかというそもそも論はありますが、資金と整備する人材の確保が急務であることは避けられない事実です。

さらに掘り下げると、登山道を管理する目的は登山に来る人によって自分たち(地元の旅館など)が潤うことです。よって、ただ整備するのではなく地元・登山道のファンを増やし、この登山道を使用する人たちを増やすというミッションが要件に追加されます。

人が歩くことで地面が踏み固まり道がしっかりできて道迷いなども少なくなります。プロモーション自体が登山道整備の目的である安全に直結するという側面があります。

登山道整備だけで資金提供する意義を見いだせる人はいるのか

登山道整備

登山道整備します。ご支援おねがいします。

程度の差はあるにしても、地方創生系のクラウドファンディングは自治体の身勝手なお願いであることはまちがいありません。「これがやりたい、お金ください」とほぼ同義です。「もしお金くれたら、地元の◯◯をプレゼントするよ!」というのが地方創生クラウドファンディングの基本戦略です。

そのリターンアイテムに魅力があるなら初めからお金に困る事態に陥っていないので、人の善意によって施しを受けるということは間違いありません。

これが個人や企業のクラウドファンディングである場合は少し異なります。例えばアイスクリーム屋を作りたい人が、リターンでアイスクリームの詰め合わせを用意するのであれば、それが好きな人にとっては十分な投資価値があります。企業がヘッドホンを作るといえばオーディオマニアならば抵抗なく投資できます。

双方の利害の一致というのはビジネスの基本なのですが、地方創始系のものに関してはその観点が抜け落ちることが多く、投資する意味が「地方に貢献する、支援する」という精神的な満足に着地しがちです。

個人的にこれは地方の甘えだと思っていて、登山道整備をするのであれば本当に山を愛する人が喜ぶリターンでなければ意味が無いと思いました。

登山者が喜ぶプロダクトリターンの作成

地方創生であるからという大義名分を捨てて、純粋にこのアイテムがほしいから投資するということを最重要視しました。それでも地域活性という属性はついて回るのですが、最大限出資者の利益になるように努力するのが企画者の義務であると思います。

MAMMUTコラボタオル

タオルのノベルティを出すことが少ないMAMMUTとコラボして今治タオルでリターンアイテムを作ったり、

アウトドアメーカーコラボマグカップ

アウトドアメーカーコラボTシャツ

競合他社を含む営利ではほぼ実現不可能なレベルのメーカーの組み合わせのロゴが入ったマグカップやTシャツを作成したり…

finetrackコラボユニフォーム

finerackでユニフォームを作ったりと、昔はいち登山好きであった自分の経験から「こういうのがあったらほしいよね」というアイテムを作りました。

どうやってメーカーとコラボしたのかは長くなってしまうので割愛しますが、登山においてそれなりの実績と経験を持っている人がいなければ難しいということは言えると思います。

これが手掛けたクラウドファンディングの基本ロジックです。

必要以上の資金は集めない

登山道整備クラウドファンディング

2回目の乗鞍新登山道整備の売上は2,504,900円の支援金が集まりました。しかし収益はほとんどありません。

クラウドファンディングのリターン

例えば12600円のfinetrackコラボドラウトフォースジップネック+ドライレイヤースキンメッシュ+マグカッププラン。こちらの内訳を誰でもわかる範囲で考えて以下の事がわかります。

定価での購入金額

  1. ドラウトフォースジップネック:7992円
  2. ドライレイヤースキンメッシュ:4536円

12528円にプリントの版代、プリント代、マグカップ制作費が乗っかります。
そこから更にMakuakeによる売上の20%の手数料が引かれます。

どう考えても利益はゼロに等しいプロダクトリターンです。このようにわずかな利益を積み上げて必要最低限の資金を作りました。

自分たちの事業を成功させるのが目的ですが、そのための負担をサポーターに強いるのは本末転倒なので、「お得な買い物だったな」と思ってもらえるように、出来る限り出資金はサポーターに還元できるように努めるのがモラルだと考えています。

クラウドファンディングはやらないに越したことはない

商品開発系のプロジェクトと違い、「地方創生」という名がつくだけで寄付というイメージが強くなります。つまり人の善意に頼って資金を集めて事業をすることになります。正直まっとうなビジネスと言い切ることは難しいです。

本来ならば自治体が情報発信を行い、正当なサービスを提供する代わりに報酬を受け取る。これが理想です。この寄付という属性が厄介な問題はこれだけではありません。

資金をプールできないため赤字になる

クラウドファンディングでのプロジェクトは、それ以外の用途に資金を使うことはできません。実際にはそういう規約はグレーであり、やろうと思えば出来てしまうのですが、モラルとしてやるべきではないという認識を持っています。

これが正当なビジネスとしてのサービス提供であるならば集めた資金でプロジェクトを行ったあと、余った資金で他の事業を立ち上げたり、テコ入れしたりという使い方ができます。クラウドファンディグはプロジェクトの横展開ができないのです。

予算を使い切る必要性+不良品に備えて余裕を持った発注。寄付金の使い方のモラルと事業の確実性を考えると必ず赤字になります。

これは地域活性目的のクラウドファンディングをこれから行おうとしようとしている人はよく考えて欲しいところです。

クラウドファンディングが赤字であるべき理由

  1. 必要な資金のみ集める
  2. 必要なものにしか資金は使わない
  3. 余剰資金はすべてサポーターに還元する

よってオリジナルノベルティを必ずプランに入れて、収益のあまりをすべて使って出来る限り高品質なものを作製しています。

これを厳守すると間違いなく赤字です。200万円くらいの寄付金が集まるクラウドファンディングであるならば自治体は最低でも20万円程度の予算は組んでおいて赤字の補填に当てるのが誠意のある事業だと思います。

自治体単位でクラウドファンディグを行うのであれば、自分たちでは集客できない、PRするプラットフォーム(自社サイト・SNSなど)がないときの最終手段として使うべきで、0円でできるという甘えた考えは捨てて数十万は経費としてかかると考えるべきです。

実際に「クラウドファンディングやりませんか?」と提案してくるあやしい会社も多いですし、成功しそうなプロジェクトに乗っかり自分の実績として他の地域に売り込みに行こうとする人たちも大勢いるので、厄介なことこの上ありません。

地方の補助金制度の問題

補助金

それでもなお、地方をクラウドファンディングを使用して盛り上げるという流れは勢いがあります。

これはその実態とイメージの乖離がひどい現実があるからです。理由の1つ目が地方自治体が補助金に慣れすぎているということ。2つ目がクラウドファンディング=簡単に資金調達ができるというイメージがはびこっていること。

後者はそれを上手く使って地域にクラウドファンディングを開催させて利益の一部を奪い取る地方創生コンサル・クラウドファンディング専門家と名乗る怪しい人や会社が多くなってきています。

補助金はもらえて当たり前という風習

補助金の問題

それなりに色々な地方を見てきましたが、多くの場所で補助金がもらえることが前提の事業を組み立てています。今年の補助金を使って何をしようか…?という意識なので当然計画は杜撰です。マネタイズとは程遠い低いレベルでの事業展開になります。

面白いのが補助金が打ち切られることは考えていない点。そんなものは行政の胸先三寸であるにもかかわらず。

本来ならば補助金が出るうちに事業の黒字化を達成し、補助金がなくなっても運営できるようにするべきです。ほとんどの民間企業は自社資金や借金を使用して収益を出し生活をしています。

地方というだけで数百万のお金が手に入り、適当に使うことができる。どう考えても歪な構造です。
私達の血税はこのように無意味なことに使用され続けている現実があります。

このような背景があるため、クラウドファンディングも補助金の1つという認識が強く、「このイベントお金が足りないからクラウドファンディングできない?」というズレた発想に結びつきます。

悲しいほど資金が集まらなかったり、怪しい会社の餌食になります。ひどいイベントでも補助金が出るため、それ目当ての会社が申請からイベント開催まで行うというのは有名な話です。

All inというクラウドファンディグ方式の問題点

クラウドファンディングは目標金額を達成したらプロジェクトを行い、達成しなかったら全額返金する all or nothing方式と、達成せずとも集まった資金で開始するall in方式の2つがあります。

事業の内容によってはall in方式であってもクオリティが変わらないものもあるため一概に悪いものであるとは言えないのですが、これが胡散臭い会社が蔓延る温床になっていて、とにかく地域を煽ってクラウドファンディングを開始させてしまえば、その時点で一定の収益は確保できてしまう構造になっています。

クラウドファンディングのこと、WEBのこと、マーケティングのことを知らない人が多い地方の限界集落になるほどその傾向は強いと言えます。

クラウドファンディングにはWEBの知識は不可欠

WEBで集客して資金を調達するため、使用するプラットフォームに加えてどのようにターゲットにリーチするのかの戦略は不可欠です。どれだけ良いプロジェクトで最高のリターンであったとしても見られなければ意味がありません。

それを施策できる人材がどの自治体にもいるようには思えません。いたらいたで属人化が始まり収集がつかなくなるのですがそれは後ほど解説します。

ここでの問題はやっぱり「支援者」を名乗る怪しい人たち。

地方の人材がWEBに疎いことをいいことに適当なことを言い「0円で事業出来ます!私達はその中から成果報酬をいただくだけです」という甘言でクラウドファンディング開催を誘導します。

クラウドファンディングをすることを前提に自治体にイベントや事業を考えさせるため、別にやらなくても誰も困らないプロジェクトだったりしますし、そのようなことを提案してくる会社なのでレベルひどいものがほとんどです。

これは私が「自治体の内部の人間」として提案してくる会社と話をすることが多い経験から、確信にいたっています。彼らは私が東京の大手企業でディレクターやエンジニア・デザイナーを定期的に行っているという背景を知らないため、したり顔で10年前のWEBの知識をひけらかして「弊社にお任せください」と提案してきます。悲しい。

地域のためにもならず、支援者の満足も考えず、仕掛ける会社だけが潤う最悪な展開といえます。

クラウドファンディングを成功させるために必要な知識

あくまで私の経験則になりますが、独学ではなく企業に属していたりクライアントワークスを行った経験レベルで下記の技術は必要です。

最低限ほしい知識

  1. 写真撮影
  2. ブログ運営
  3. Photoshop・Illustrator
  4. プロダクトデザイン経験(ノベルティで集客する場合)
  5. WEBマーケティング

さらにより確実に行うのなら下記も必要になります。

企業を巻き込むときに必要な知識

  1. WEBサービス構築レベル(最低WordPressテーマ開発)
  2. 対企業交渉経験(企画立案・プレゼン)
  3. SEO

これからわかることは地方自治体の限界集落には無茶ブリすぎるということ。

しかしこれができない限り怪しい会社に騙される可能性が高いのでクラウドファンディングをやるべきではないと思うようになりました。自分たちの地域の問題で人から寄付金をもらう以上、その収益を第三者である「支援会社」の報酬にすること自体間違っています。

そうなると今度は属人化が始まります。いわゆるWEB屋のスキルがクラウドファンディングには必要なのですが、そのような人が1人でもいるとすべての作業を背負う羽目になり破滅します。できない=やらなくていい&誰かがやってくれるという考え方をする人は少なからずいますので、メール対応であったり、イベント当日の作業なりを分担して負担を分散する必要があります。

プロモーションツールくらいの使い方がちょうどいい

地域活性事業において、クラウドファンディングでお金が集まったら行うという事自体おかしい話です。本当に必要なことであるならば持ち合いでも、補助金でも使用して行うべきです。

しかし多くの人に知ってもらえるという点においては優秀なツールであり、集まった資金のほとんどをサポーターへのリターンに使い事業自体は自分たちで持つというやり方が長期目線でみて成功への近道だと思います。

事業自体は赤字であっても広告費という面では費用対効果として回収できます。

リターンに設定されているプロダクトの価格設定が良心的であるということはサポーターのことを重要視しており、1つの売上に対しての利率が低いことを意味します。こういうクラウドファンディングは熱意のある企画者がより多くの人に知ってもらいたいと戦略を練っている可能性が高いため信用性が高いといえるかもしれません。

協賛・協力企業を巻き込むメリット

例えば、今回手がけたものだと20社ほどアウトドアメーカーに協賛・協力していただきました。最優先したことはサポーターが満足するリターンを作ることなのですが、副次効果として広告効果があります。

当然企業理念と一致すること、事業自体に意味があること、サポーターの求めるプロダクトが作れることの3つを達成する必要があり、まとめ上げるのは難しいのですが、各社からの情報発信で得られるPR効果は莫大ですし、アウトドアメディアに掲載されたりします。

計算した結果、純広告として掲載依頼をした場合に換算すると2017年の登山道整備は1400万円ほどの広告効果が確認できました。乗鞍新登山道整備も実質赤字ですが、それを上回る費用対効果であると思います。

その分要求レベルはあがります。その中でも特に難しいのが守秘義務を始めとしたコンプライアンス。会社勤め経験がないと遵守するという考えがわからず、問題が起きた場合のリスクの想像もつきません。

一般企業に勤めている方なら重々承知なものでありますが、クラウドファンディングに限らず情報を扱う事自体が危険であることも少なくありません。

クラウドファンディングは迂闊にやるべきではない

このように地域活性にクラウドファンディグを使おう!という発想は危険極まりないのが現実です。

すべて分かった上で運用すればよい手法であるのですが、それを取り巻く環境が良くありません。モラルを捨てれば儲けられる構造が、それを狙う良くない人たちを作り出しています。それを目当てにクラウドファンディングを行う内部の人が出てくるかもしれません。

本来は自分たちだけで情報発信を行いサービスとして売り出すべき、それができない場合の最終手段として自分たちだけでクラウドファンディング。それもできないのであればやるべきではない、というのが2回クラウドファンディングを行った私の考え方です。

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