山に登り写真を撮り、下山してからまた山に登り撮影する。
その繰り返しになる山岳写真家にとってのネックはデータ整理やレタッチ作業のために一度街に帰らなければならないことです。
できることなら家や事務所には帰りたくありません。狙う写真が撮れそうな天気を見定めて全国を動き回り毎日でも山に入りたいのです。
しかしクライアントワークではデザインなどに組みこむためのイメージ写真(アタリ)を求められることも多く、大量のRAWファイルを簡易レタッチして書き出す作業が必要になります。
山奥から自宅に帰りデスクトップPCでファイル整理や簡易レタッチをしていては移動時間が長くスケジュールを圧迫することもあり、さらにその中で修正作業などのやりとりが発生してしまうと数日拘束されてしまいます。これでは天気を見て自由に行動することができなくなります。
そこで求めたのがあらゆる場所で作業ができる最速のワークフロー。
それは下山後の車の中や山の麓の旅館でストレスなく作業ができること、そして自宅では作業環境を一切変えずに正確に色を追求できること。
よって理想はデスクトップPC並のハイパワーノートPCです。
ハイエンドデスクトップPCと同等のパフォーマンスが出るのであれば、出先でも自宅でも作業環境の差が最小になります。
さらに自宅ではカラーマネジメントモニターを使用すれば色味も正確になり作業領域も広がり、じっくり色を見ながら写真を仕上げることができます。
そしてなによりデスクトップPCとノートPCの2台運用をする必要がなくなるため圧倒的にコストパフォーマンスの良い環境になります。
以前から何度かデスクトップPCに変わりにもなるノートPCという期待を込めて数台購入したこともありましたが、RAW現像や動画編集には厳しく結局はノートPCはデータの持ち運びと事務作業、クリエイティブワークはデスクトップPCという着地をしていました。
そこで出てきたのがマウスコンピューターDAIVのカスタマイズモデルとEIZOの4KカラーマネジメントモニターColorEdge CG319Xという選択。
今回はマウスコンピューターさんのご協力で、使用しているRAW現像用の自作デスクトップPCとまったく同じパーツで構成されたDAIVをお借りして、数ヶ月に渡り比較検証しました。
ネイチャーフォトで多く使われる4500万画素を超えるRAW現像を快適に行うために必要だと感じて選んだパーツが下記になります。
RAW編集用のPCスペック | |
---|---|
CPU | Corei9 900K |
メモリ | DDR4 64GB |
GPU | Geforece RTX2080 |
ストレージ | M.2 SSD |
グラフィックにRTX2080を選んでいるのは自宅では4Kのモニターを3台つなぐトリプルモニターの環境を使うこともあるという理由です。
静止画メインのクリエイティブであっても、3つの画面で4K出力をすると相応のスペックで余裕を持たせないと高負荷時にカクつくことがあります。
写真のRAW現像をしながらDTPデザインをしたり、WEBデザインをしたりとマルチタスクには必要不可欠な環境です。
DAIVで実現する理想のワークフロー
- 山に登り写真を撮る
- 近場の宿泊施設で写真データをバックアップ。必要なものをレタッチして納品
- 準備を整え次の山に上り撮影
- 自宅に帰りカラーマネジメントモニターを使用して写真の色を追い込む
これが私が理想とするワークフローです。
色々な運用方法を試した結果、私と相性が良かった使い方が登山後の温泉旅館での作業です。北アルプスの深部で数日間に渡る撮影後、麓の奥飛騨温泉郷で行った作業をご紹介します。
旅館にチェックインしたら早速データの転送を行います。
高速のM.2のSSDとUSB3.0のインターフェースのおかげで、XQDカードの100GBを超えるデータでも数分でDAIVの中に取り込むことができます。
DAIV-NG7700シリーズのSDカードリーダーはUHS-IIに対応しています。使用するカメラによってはカードリーダーを必要としないためよりスムーズなデータの取り込みが可能です。
読み込み150MB/sのUHS-IIのカードを読み込ませてみたところ、120MB/s以上の速度が出ていることからより高速のカードを使用すればデータの取り込み時間が短縮されると思われます。
山岳写真の撮影で山に入るときでもサブ機としてAPS-Cのコンパクトデジカメを持ち歩いています。このようなカメラの多くはSDカードであるためPC本体にカードリーダーが搭載されていると非常に楽です。
有効画素数4575万画素のNikon Z 7のRAWであっても読み込みや画像の展開もストレスなく行うことができ、書き出し速度に関しても同スペックのデスクトップPCよりも高速でした。
64GBの大容量メモリのおかげで数千枚のRAWをLightroomに読み込ませてRAW現像作業を行っても余裕があるのがわかります。
同じスペックのデスクトップPCよりもCPU温度は高くなりますが、排熱機構がしっかりしているおかげでクロック数が落ちることなく処理することができます。
ただしRAWの書き出しなど高負荷をかけると排熱のためのファンの音が気になるため、静かな場所でじっくり作業をしたい場合は注意が必要です。
しかしノートPCでハイエンド用のCPUであるCorei9 9900Kを使用できることを考えると許容できる問題です。
※同スペックのデスクトップPCとのRAW書き出しの速度比較
スペックが同じ自作PCとDAIVでNikon Z 7のRAWファイルを100枚M.2のSSDから同じSSDにLightroomで書き出してみました。
自作PC | DAIV |
---|---|
5:54 | 5:20 |
結果はCPU、メモリ、GPUが同じでもDAIVの方が高速という結果になりました。
LightroomなどのRAW現像ができるアプリケーションで画像を読み込みレーティングやラベルをつけて自宅に帰ってからスムーズに作業に移れるように準備を行います。
時間の余裕があるときはここで簡単なレタッチ作業も行い、撮影時のイメージを落とし込んでいきます。今までであったら一度自宅に戻り行う作業を温泉旅館で疲れを癒やしながらゆっくりと写真を選別、編集することができます。
RAW編集を1枚1枚行うようなレタッチならCPU温度も上がらずに静音性が保たれるのは嬉しい誤算でした。
お借りしたDAIVの液晶は17.3型 4K-UHDノングレア液晶で、Adobe RGB比100%の色域です。
もちろんノートパソコンというハードウェアである以上、色を正確に表示するために作られたカラーマネジメントモニターと比較すると物足りないこともありますが、照明環境が安定しない様々な場所で簡単に色を直すだけであるならば十分なスペックです。
USB-C接続のポータブルSSDをつなぎバックアップを取ります。(SanDiskの防塵防滴耐衝撃のポータブルSSDを使用)
データ転送が終わったら撮影で使用するメディアをフォーマットし次の撮影に備えます。このように撮影データをDAIVとSSDの両方でバックアップを取ることができ、安心して次の撮影に挑むことができます。
高速のThunderbolt3の接続の外付けSSDを使用すると、550MB/sの読み込み速度が出るため、RAWデータとLightroomのカタログを中に入れて使用することもできます。
写真編集を行う傍らで、撮影機材のメンテナンスやウェアの洗濯、食料の補給などを行い次の登山への準備も同時に行います。
次の山岳写真撮影で行うカメラのバッテリーやモバイルバッテリーの充電も行います。短時間で多くのバッテリーを充電するにはモバイルチャージャーを使うと効率よくなります。最近のミラーレス一眼はUSB-Cのケーブルで充電できるものも多いため、DAIVのThunderbolt3も有効活用できます。
これで次の撮影に挑むための準備は万全。
一度家に戻って準備し直す時間が必要ないため、山域によっては2〜3日ほど時間を短縮することができるようになりました。
山から最寄りの宿泊施設で必要な編集作業を処理し、バックアップを行い、身体を癒やし、次の山行の準備を整える。
この一連の流れを12時間以内で完了させられれば、気力体力が充実したパフォーマンスで再び山に挑むことができます。
ハイパフォーマンスのDAIVは一番時間がかかる写真編集を高速に処理できることから貴重な休息時間を長く取ることができます。
きっちり仕上げるときは4KカラーマネジメントモニターEIZO ColorEdge CG319Xを使用
作品として時間をかけて仕上げる写真は、帰宅して写真データが溜まったDAIVと31.1型 DCI 4K解像度(4096×2160)のColorEdge CG319Xを接続して色で追い込むこんでいきます。
31.1型くらい作業領域に余裕があると写真を大画面で確認できて調整しやすいことに加え、他アプリケーションを並列表示させてることもできるのでモニターを複数繋げる使い方とは別に高品質なモニター1台で作業をするのも魅力的だと感じました。
それを可能しているのがEIZOのカラーマネジメントモニターを制御するソフトウェアであるColorNavigator 7。一度キャリブレーションを行いプロファイルを作っておくと、PCを接続した際に最適な設定に自動で切り替わってくれるため、手動による色域の設定で間違って作業することがありません。
EIZO ColorEdge CG319Xは色測定を行うキャリブレーションセンサーが内蔵されているため、PCと映像(HDMIやDisplayPort)とUSB接続をするだけで色を合わせることができます。またスケジュールを予め決めておくことで自動でキャリブレーションが行われます。
PCを繋げば自動で最適なプロファイルと色域に切り変わる機能と、このスケジュール機能を使うことで常に正確な色でRAW編集を行うことができるようになります。
常に正しい色を表示できるEIZO ColorEdge CG319Xを使うことで最終出力である印刷を担当するプリントアーティストとのコミュニケーションも円滑になり、理想の色を追い求めることができるようになります。
色温度や色域などを予め数パターンキャリブレーションをしておきColorNavigator 7で簡単に切り替えることができるため、ラボに合わせた設定も簡単に行えます。
10GbEの高速LANでNASと接続する
RAW画像や動画データを蓄積していくと膨大なファイルサイズになりPCのストレージだけで管理することが難しくなります。これは512GBのM.2を2つ搭載しているDAIVでも例外ではありません。
そこでDAIVと外付けポータブルSSDに蓄えた大量の写真データは最終的には外付けのハードディスクに保存します。
私はLANケーブルで接続する外付けハードディスクであるNAS(Network Attached Storage)を使用しています。外出先からもアクセスすることができ、必要なデータをいつでもどこでも引き出すことができる上、自動でクラウドストレージにバックアップする機能がありデータが強固に守られるからです。
ただNASは1000BASE-Tなどの1GbE規格のLAN接続が主流であり、回線速度が遅いという弱点がありました。
しかし最近になり10GbEの高速モデルや拡張カードが多くのメーカーから発売され、パフォーマンスを最大化させれば今まで弱点とされていた回線速度の遅さを解消でき、ハードディスクの理論値を超える回線速度を出すことができる仕様となりました。
そこで問題になるのがノートパソコン側の有線ネットワーク速度です。現状のノートパソコンのほとんどは1000BASE-Tなどの1GbEの仕様になっており、120MB/s程度が限界速度になっています。
せっかくのハイスペックなマシンであるのにNAS内のデータを扱おうとすると処理が遅くなる。このネットワーク回線の速度が唯一の弱点でした。
これを解決するためにDAIVにはアクセサリーとしてUSB-C(Thunderbolt3)接続の10GbEのLANアダプタがあります。
これで大容量のRAWデータを高速で扱うことでき、バックアップするのと同時にNAS内の膨大なファイルも高速転送が可能になるためDAIVを使用してRAW編集や4K30Pの動画ならストレスなく作業を行えるようになりました。
ストレージ容量を増やすことが難しいノートパソコンのDAIVの作業環境の問題とノートPC唯一の弱点と考えていたネットワーク回線も10GbEの環境が解決しています。
DAIVのM.2のストレージを使用したRAW画像と、10GbEのNASにあるRAW画像の書き出し時間は変わらないという嬉しい結果になりました。
実測速度
RAWファイル100枚5.27GBのファイル転送速度を測ってみました。
自作PC【10GbE】 | |
---|---|
NAS→PC | PC→NAS |
12.43秒 | 11.54秒 |
平均500MB/s | 平均500MB/s |
DAIV【内蔵1GbE】 | |
---|---|
NAS→PC | PC→NAS |
49.53秒 | 50.20秒 |
平均100MB/s | 平均100MB/s |
DAIV【内蔵10GbE】 | |
---|---|
NAS→PC | PC→NAS |
25.38秒 | 13.80秒 |
平均250MB/s | 平均500MB/s |
使用した10GbEアダプタの相性があるのか、DAIVの読み込み速度は250MB/sでしたが、書き込み速度は自作PCと同じ500MB/sになりました。
RAW現像速度
自作PC | DAIV |
---|---|
5:51 | 5:36 |
NASからの現像速度も内蔵SSDの中で行う速度とほぼ変わらないことがわかります。
ハイスペックノートPCが実現するネイチャーフォトグラファー理想のPC
自然が相手であるネイチャーフォトグラファーが、いつでもどこでも作業ができるPCを手にするとパフォーマンスが劇的に向上します。
例えば山岳写真では1度山に入ると数日出てこれないことも多く、下山してきたら翌日も好天でもう一度山に入りたい。そういうケースもたくさんあります。
山が好きで、山に登り、山の写真ばかり撮っている私の本音としては家に帰りたくない、ずっと山にいたい。
街に戻らず麓の施設に宿泊して写真編集作業とバックアップ作業を行い、翌日からまた山に入れるワークフローが確立すれば、撮影機会が格段に増えることに加え私自身も以前よりも山の中にいることができます。
写真を撮り貯めて作品として仕上げるために腰を据えて写真と向き合うときも、DAIVをカラーマネジメントモニターに接続するだけですぐに作業に取り掛かることができます。しかもLANアダプタを使用すれば10GbEのネットワーク回線でNASとの連携も高速です。
使い込んだ結果、PCとしてのパフォーマンスは同スペックのデスクトップPCと変わらないこともわかり山岳写真撮影においてはデスクトップPCからの脱却も現実的になりました。
これにより出先でも自宅でも、DAIV1台ですべての作業が可能なるフットワークの軽さを手に入れることができます。
唯一の欠点は排熱のためにファンが高速に周り音が出る点。出先で不満を持つことは少ないですが、自宅でゆったりと仕事をしたい人は気になるかもしれないのでその点だけは注意が必要です。
とはいえRAWの書き出しや4K動画編集など高負荷を継続してかけない限りは基本的に静音なマシンでした。
まさにアウトドアフィールドで活動するフォトグラファーにとって理想的なPCではないでしょうか。
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