山岳写真をフィールドで教えてるテストの第2弾。
次世代の山岳写真家を育成してみようと色々頑張ってはいるのですが人に何かを教えるのは専門ではなく、未だ何をどう教えていいのかわからないため今年2回目の勉強に行ってきました。
今回は元山岳部で登山の技術や知識も申し分ないsaka_oymさんにお願いして一緒に上高地へ撮影に行ってきました。
天候が荒れてた中での撮影になったので、次に繋げるためのロケハンの仕方や撮れ高がない中でも写真を撮ってこないと行けない職業としての山岳写真の撮り方という内容になりました。
長野県側の最寄りの駐車場にクルマを停めて上高地の入り口である釜トンネルまで徒歩でアプローチ。冬は業者が整備をしているためクルマの出入りがあります。
斜度11%のトンネルを1.5kmほど歩きます。多少明かりはありますがヘッドライトは必要です。
今回の装備
トンネルの出口で撮影機材を取り出す。私は肩にピークデザインのキャプチャープロを付けたNikon Z7、オリジナルの運用システムでD4Sの組み合わせ。saka_oymさんはD750のお互いニコンシステム。
山写の装備
- Nikon Z7
- Nikon D4S
- Nikon 14-24mm F2.8G
- Nikon 24-70mm F4S
- Nikon 70-200mm F2.8E FL
- Nikon AI AF-S TELECONVERTER TC-17E II
- NiSi 角型フィルター一式
saka_oymさんの装備
- Nikon D750
- Tamron 15-30mm F2.8
- Nikon 24-70mm F2.8E
- Nikon 70-200mm F2.8E FL
- Nikon AF-S TELECONVERTER TC-14E III
お互いに似たシステムで15-300mmくらいまでの画角をカバーできる構成です。当然山に持っていくのが大変な超重量の装備です。
大量の撮影機材と防寒具、冬山でのテント泊を詰め込むために選んだのがやっぱりグレゴリーのデナリ100。山岳写真のザックの定番です(たぶん)。堅牢性が高く、たくさんのギアを外付けできるので撮影機材でザックの容量を圧迫される山行には最適です。

残念ながら上高地は悪天候
大正池のあたりで雪がちらつき展望はほとんどなし。入った時間がお昼ということもありこの日はテント場を目指してスナップのみで進みます。
晴天なら河童橋と梓川と穂高の眺望が望めるのですが、さっぱり見えない…諦めて小梨平へ。
夜は猛吹雪
この日は上高地でも久しぶりの大雪になり、日が落ちると吹雪に。急いでfinetrackのカミナドーム2を組み立てて中に避難。
今回の山行でテストで持ってきたファインポリゴンのテントの内張りであるカミナドーム2ウィンターライナーEXP。テント内の結露を抑制しテント内の保温力を向上させるアイテムです。
実際に使ってみた結果、外気はおそらくマイナス10℃以下なのに対してテント内のプラボトル内の水が凍らなったので室内温度は0℃以上。これならばシュラフをワンサイズ小さくできます。
シュラフもテストで持ってきたISUKAのエア810EX。-25℃まで対応しているの厳冬期用のシュラフですがNANGAのオーロラシリーズのようにシュラフカバーの機能性はないため別途必要になります。
ここで実験したかったのがカミナドーム2ウィンターライナーEXPの結露抑制。室内温度が高くなればシュラフの結露の少なくなるのでこれがあればシュラフカバーもいらないのでは?と思い実験しました。
結果はかなりの満足。表面はしっとり濡れていますが撥水性のある素材なので中まで濡れることなく2日くらいならしっかりと保温してくれそうなコンディションを維持できました。
外に出るのも躊躇われるほどの風量だったのでおとなしくテントの中でお酒を飲みながら山岳写真の座学へ。
2日目も天気は大荒れ
朝起きたらテントが半分埋まっており、周辺すべてが膝上ラッセル状態。お昼から天候が落ち着く予報が出ていたのでそれまではテントの中で待機。
雲は厚く晴天は望めそうにありません…
雪がやんでも穂高は見えてこないので、山を撮ることは諦めて上高地の中の被写体を探すことに目的を変更。被写体の探し方や限られた要素で構図を組み立てるロジック解説に実習内容を変更しました。
オブジェクトの色と動きで構図を作る
悪天候時は主題になりがちな遠景はガスで覆われているため使うことができません。そして上高地は天然記念物に指定されているため限られた立ち位置からの撮影が基本となり近景を活用することも難しい場所。
よって必然的に中距離を切り抜くアプローチが多くなるため、最初に行なったのがその撮り方と構図の作り方。
山の重なりで遠近感を作り視線を誘導していくのがわかりやすい撮り方です。
2つの要素で作った構図。色彩だけで画面を構成することもできます。下の領域は赤、上は緑で補色対比が起きて色彩調和をしています。
次は3つの要素。山の流れを切り取ることで立体感と奥行き感が出ます。このように要素を足したり引いたりして表現したいものを作っていく撮り方があります。
ここに少しの間ひらけた空を入れるとこのような感じに。この足し算と引き算で【奥行きと広さ】のコントロールができるようになります。もちろん実際はここに別の遠近法であったり、視線誘導のロジックを組み込んでいくことになります。

広角の構図の撮り方
山岳写真では距離感を作るために超広角レンズを使うことが多いですが、上高地は山の稜線とは違い下は地面であることから少し勝手が違います。
ここではポジションとアングルでどのように変化があるのかの解説。
空のハイライトを囲むように木の枝を配列させることで注視点をつくったり…
アンダーで撮影することで地面の雪と木の陰のコントラストを作り、空ではなく雪を強く出すことができます。
ここでも機材テスト。Nikonの14-24mm F2.8とNiSiのフィルターシステム。150mmの巨大な円形C-PLフィルターを使用しました。
オーバーとアンダーの使い分け
悪天候であっても雪であれば時々日差しが強く入ることがあります。それでいてディフューズがかかり独特の逆光シーンを撮れます。
露出をオーバーで撮影すれば雪が煌めき…
アンダーで撮影すれば白とグレーの階調が豊かにでます。
このようなことを解説しながら上高地をウロウロしながら撮影。悪天候とはいえ北アルプスに囲まれた上高地は歩いているだけで楽しい(私達以外誰もいないので)
望遠で象徴を切り抜く
現在行なっている山岳写真の技術を人に教えるための私の勉強シリーズは普段使わない機材のテストや検証も兼ねています。
今回試してみたのはNikon Z7とFTZにつなげたテレコンバーターと70-200mm F2.8の組み合わせ。さらにそこにNiSiの角型フィルターシステムも加えてたもの。
スーパーフロントヘビーすぎて実用性は皆無ですがどのような写真になるのか気になった組み合わせです。
圧縮効果が強くかかり、森と山との距離が近くなり、雪煙がキレイに切り取れます。
主題を活かすための構図の選び方
主題が決まっていても、それを引き立てるための副題や演出要素をどのように選べばいいのか、結果どのような作用が起きるのかの解説。
例えば梓川を入れて遠近感を作ると消失点に視線を誘導してから逆八の字に伸びるオブジェクトに沿って動きます。
川を入れなければ稜線のラインが際立ち別の見方を誘導することができます。このように何をどのように見せたいのかを考えて構成要素をえらんでいきます。
残念ながら北アルプスの山々が見れなかったので、ロケハンの練習として好条件なら撮れるはずの写真を想定して構図を作る練習をしてました。
広角から望遠に寄っていく撮影手法は要素が分けにくい渓谷などでは有効なアプローチなので、困ったらその順番に撮影して構図を詰めていくと整理されることが多いです。

今回はあくまで撮影の手法やアプローチがメインなので気になった構図はすべて撮影して比較検証します。私も現場では撮影してプレビューを見てから構図を詰めていくアプローチを多用します。
構図を作るためにポジションを頻繁に変えるため超重量の荷物を背負ってのスクワットを数百回と繰り返すことになります。山岳写真に筋トレが必須である理由の1つです。
撮影を終了し道を戻る
夕方まで上高地で撮影し、日が傾き始めてから帰路へ。
撮影が終わってから超重量を背負って駐車場までの十数キロを歩くのが山岳写真の魅力。撮影が終わっても山行は終わらないのです。前日の大雪で積もった雪の上をワカンとスノーシューで歩きます。
釜トンネルに到着したことには既に日も暮れて気温が一気に下がり始めます。
釜トンネルにある中の湯の売店には電話があるので、冬季でも土日であれば沢渡にいるタクシーを呼ぶことができるそう(平日は常駐してないとのこと)
平日でしたので駐車場への数キロをさらに歩きます。普段人が歩かないこともありところどころ凍結しているため注意して進みます。
駐車場についたら上高地側に引き返してそのまま岐阜に入り平湯温泉のひらゆの森へ。なにかと縁がある私の北ルプス登山の拠点地です。ここで温泉に入り今回の研修は終了。
いつもの仕事に近い技術の共有ができた研修
山岳写真は自然を相手にするため、天候に撮れ高が左右されます。その中でも悪天候だからこそ撮れる写真であったり、次の撮影でスムーズに撮影するためのロケハンをしたりと成果を上げなければいけません。
今回の内容はそれに近いもので、ダメならダメなりの撮り方を変更するというアプローチでした。
そんな技術や考え方を共有できたことで、前回に加えて新たな発見が沢山ありました。今回も私の勉強にお付き合い頂いたsaka_oymさんにはきちんとお賃金をお支払いしています。
美術畑出身の人ならロジカルアプローチに強いですし、山岳部の人なら体力が十分なので機材力や行動力があります。結果として撮影方法も違えば成果物も変わってきます。それがとても楽しい。
今後もできる限りこのような取り組みを続け、まとめ上げた技術を多くの人に公開できるように頑張ろうと思います。

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