写真で仕事をしているプロカメラマンのベストショットはスタートにすぎません。
撮影したJPEGやRAW画像はこの段階ではまだ素材でありクライアントに納品できるものではなく、LightroomやPhotoshopでレタッチしてから納品します。
私個人としては撮影とRAW現像・レタッチの割合は50:50で考えています。そのくらい写真の後処理は重要であり、構想通りの写真にするためには必要な作業です。
仕事として撮影するカメラマンはどのようにレタッチして、どこまで追い込むのか。
今回は実際に仕事で撮影しパンフレットや冊子などの集客・販促ツールとして使われることが決まっている写真を使用して解説していきます。
趣味ではなく商業としてのLightroomを使用したレタッチテクニック。第一弾は私の専門のネイチャーフォトです。
前回ご紹介した岡山県鏡野町さんで行ったワークフローで撮影したRAW画像のレタッチを今回行います。この2つの流れで撮影からレタッチまで1つの流れとして完結します。

Lightroomレタッチ記事の初回ということで作業環境についてまず簡単にご説明します。
RAW現像とレタッチの環境
撮影したRAWデータがAdobeRGBの色領域なのでモニターは広域色のものを使用します。今回はAdobeRGBを99%カバーし、かつハードウェアキャリブレーション対応のBenQのSW2700PTを使用しています。人が手を出しやすい価格なので初めてのカラーマネジメントモニタに最適です。

次にモニタで正確な色をや階調を表現するためにキャリブレーションを行います。これを行わないとコントラスト調整などでディテールを潰してしまったり色味がおかしくなる事があります。
趣味として写真撮影とレタッチでは必ずしも必須ということではありませんが、クライアントワークスでは欠かせないものです。

記憶色をレタッチの基準にする
写真にルールはありません。基本的には好きなように表現すればいいものです。しかし商業利用に関しては売上に貢献することを第一に考えます。自分の世界観を表現したりアーティスティックに仕上げればいいというものではありません。
観光名所のPRという目的であれば、私は記憶色の再現というアプローチを取ります。過度の表現は行わないけれど華やかな写真というイメージです。実際は白に近い桜の色が記憶の中だとピンクであるように、現実と乖離しない範囲でのレタッチです。
過度な演出で集客すると、実際に現物を見たらがっかりだったということになりかねません。そのような写真を納品するのは私は好きではありませし、プロで仕事を行うカメラマンはクライアントの意向や、なぜ写真が必要なのかという背景をしっかりと把握しソリューションを提供するべきだと考えています。
全体修正と個別修正の箇所を選定
これがRAW画像をそのまま書き出した写真です。ネイチャーフォトの難しいところは光源をコントロールできないためRAW画像の段階では実際自分で見たイメージのものと違うものになりやすい点です。
シチュエーションが良ければ撮って出しでも美しいものですが、そうそう上手く行かないのがネイチャーフォト。写真の善し悪しはレタッチにかかっているといっても過言ではありません。
全体調整に必要なレタッチ | |
---|---|
画像眠い | かすみの除去 |
滝と岩が同化 | コントラスト |
岩の硬い質感が足りない | 明瞭度 |
緑の彩度が足りない | 自然な彩度 |
すぐに思いつくのがこの項目、どのパラーメーターを動かすと何が修正できるかというのは覚えておくとレタッチの速度が早くなります。
かすみの除去
山の中などでは霧で遠くの景色が見えなくなることがあります。そんなもやっとしている画像に対してコントラストを上げてディテールをはっきりさせるために使用するのが「かすみの除去」です。逆光でのハレーションの修正もできることからネイチャーフォトのレタッチでは多様するパラメーターです。
ここではかすみの除去を+55に変更。このパラメーターは数値を上げすぎるとノイズが発生しますので使用しているボディの高感度耐性に依存します。
コントラスト
白と黒の差を強調してメリハリを出すのがコントラスト。滝と岩が同化していたのでこのパラメーターをプラスにします。
コントラストは比較的使いやすいパラメーターです。JPEGの撮って出しの画像は高コントラストであるため、この数値を上げると慣れ親しんだ画像になります。しかし数値を上げぎると白飛びやシャドウの潰れが起きますのでディテールにこだわる際には注意が必要です。
明瞭度
明瞭度を上げると輪郭部分のコントラストが上がるため写真がシャープに見えるようになります。後ほど解説しますが、この写真は水の流れと岩の質感が重要なので、岩の硬質感を出すために重要なパラメーターです。
自然な彩度
次に記憶色に近づけるために全体的な彩度をあげます。緑は鮮やかに、滝にも少しだけ入っていた青が起き上がってきているのがわかります。
全体調整が終了したら次は部分調整に入ります。ここで一旦全体修正前と後の画像を書き出して比較してみましょう。
パラメーターは全体のみで調整した方が写真に違和感が出ません。理想はここでレタッチを終了することです。
しかしディテールの表現など部分的に露出を変えたりすることで視線誘導などを行える完成度の高い写真に仕上がるため、ネイチャーフォトでは部分的なレタッチは必須です。
露出の差が激しくなりやすいネイチャーでは覆い焼きや焼き込みは常套手段であり、フィルムでも現像時に多様されるテクニックです。
木々と潰れたディテール部分のレタッチ
ここからはどのような写真に仕上げるのか明確な意図を持たないと収集がつかなくなるのでまず何をしたいのかを明確化します。
木々の部分で気になったところです。露出オーバー部分に関しては自然の原理に基づくものなので修正するかどうかは作風次第ですが、今回は滝の方に視点を誘導したいので写真の中のハイライトを滝にしたいというアプローチでレタッチします。
また緑の部分にシャドウが多く記憶色の緑とは少々異なります。最後に右下の岩の部分のシャドウが強くディテールがわかりづらい、滝と同化しているという点。まずはこちらを修正していきます。
ブラシツールよりも段階フィルターを優先する
段階(グラデーション)フィルターを使用することでレタッチの効果の違和感をなくします。特に空から地面にかけての露出の変化の修正には効果抜群です。
段階フィルターは幅を作ることにより、100%適応させる範囲と段階的に適用させる範囲をコントロールすることができます。今回の画像では露出がオーバーしている部分は100%適応させ、あとは自然と馴染むように使用しています。
ハイライトを-80、彩度を+45にするとこのように露出オーバーの部分が抑えられ鮮やかで深い緑になります。
ディテールの潰れたシャドウ部分も持ち上げる
次にディテールの潰れた岩や木のシャドウ部分を明るくしてディテールを復活させます。これも同じく段階フィルターを使用します。
シャドウを+70まで持ち上げました。露光量ではなくシャドウを使った理由は暗所以外に影響を与えたくなかったためです。露光量のパラメーターは影響力が強く部分的に使用すると不自然な仕上がりに成りやすいので、シャドウやハイライトのような影響が少なく自然な感じになるようなパラメーターを多様しています。
滝の修正
次は滝の気になる点です。岩はもっと硬い印象があり、また水の色も記憶にあるものと違っています。これを直して行きます。ここからはスポットで修正ができるブラシツールを使用します。
岩の質感を硬くする
ブラシツールで岩を選択します。できるかぎり不自然なものにしないためブラシのぼかしのパラメーターは高めに設定しています。
ここでは複雑にパラメーターを組み合わせています。まず反射面を消すためにハイライトをマイナスにし、全体的に露出が高めなので露光系のパラメーターをマイナスにしています。岩はエッジが多いので明瞭度が高いとキラキラしてしますのでマイナスにして、かすみの除去を使用して全体のディテールをくっきりさえせています。
滝の色のレタッチ
水だけを選択することができないためブラシツールで滝の全部をマスクします。
色温度は明るい箇所に強く影響し、暗所には影響しにくいパラメーターです。この性質を利用して水の色を青に変更します。またハイライトをマイナスにすることで露出オーバーになる部分を少なくして水のディテールを出します。
注意する点が明瞭度。これは先程レタッチした岩とか逆のプラスに変更してるので、マスクしてある岩にも当然影響が出ます。もし質感に問題が出るようなら岩のマスクを再度選択してパラメーターを調整する必要があります。
ゴミ取り
野外でレンズ交換するネイチャーフォトはゴミ取りとの戦い。ひどいときは30分くらいひたすらゴミを取る作業に費やすこともあります。Lightroomのスポット修正ツールは選択した箇所を画像と馴染むように消してくれる優秀なツールです。
ちょっとしたゴミなら選択するだけで簡単に消すことができます。自動で修正に使用するサンプリング箇所を選ばれますので不自然な修正であったらその箇所を変更して背景と馴染むように調整します。
修正のモード「修復」にします。コピースタンプですとサンプリングした箇所をそのまま使用することになりますので違和感が出やすいです。
一部の色を修正する
あとは全体のバランスをみながらの調整となります。
ぱっと見た感じで緑が暗めなので視点が滝に行くか木にいくかのどっち付かずです。
これは滝と木の明度差がないためなので、全体的に緑を明るくして視線が滝に行くように調整します。
先程行った段階フィルターやブラシツールで露出を上げてもいいのですが、他の要素も引っ張られてしまうので緑の色だけレタッチをかけます
HSLの項目の輝度を選択して緑のパラメーターを+にスライドさせます。ここの項目は一部の色の色相・彩度・輝度を調整できるためPhotshopの特定色域の選択と同じような使い方ができます。
Lightroomを使用したレタッチの完了
これが実際にパンレットや冊子になる写真のレタッチです。
今回は観光地のPRやパンフレットに使用する写真のレタッチですので、過度な演出は避けて記憶色というアプローチをしています。このようにプロとして写真をレタッチするときはコンセプトありき、自分好みな作品に仕上げるものではありません。悪く言えば没個性です。
Lightroomを使用したレタッチテクニックは被写体によっても違いますし、フォトグラファー各々でテクニックを持っています。書籍があまり参考にならない難しいアプリケーションですが、どのようなことができるのかを把握すれば理想とする写真にするための糸口が掴めます。
自分好みの写真に仕上げるだけですと使用するツールが限定されてきますので、まずコンセプトを決めてレタッチをするのは良い練習になると思います。
どこまでレタッチすればいいのかというのはプロ・アマ問わず答えがないものです。今回はその1つの目安として仕事で私が行うレタッチの一例のご紹介でした。
スポンサーリンク
コメントを残す