今回初めてブログ用に山岳写真を撮影し記事を公開しました。
同じ山を題材にしながら山行記事と写真記事の2つにわける方法を取った理由は、山岳写真だけはノイズを入れたくなかったからです。


以前から撮影手法や露出、被写体を探す着想などを知りたいというご要望が多かったこともあり、作例と一緒に解説できるページとして「Yamasha Professional」を作りました。
本来はゆるい記事を書く方が好きなのですが、この分野だけは明確にプロフォトグラファーとしての立場を取ることにします。
以前からTwitter(@Photograph_mt)でご質問にお答えしたりしていて、数日限定で専用にPeingから受け付けてみたところ様々なご質問を頂きました。
そこで、ちょうどいい機会なので私のフォトグラファーとしての立ち位置と山岳写真専用ページを開設した理由を書くことにしました。
ネイチャーフォトにおいては写真家
写真を撮影して収入を得ている人は大きく分けて2パターンあります。クライアントの意向に合わせて撮影するスタイルと、自分の思うままに撮影した作品を何かしらの手段を用いて収入にするスタイル。
日本でいうと前者が「カメラマン」、後者が「写真家」になるのでしょうか。海外にいたので明確な違いがわからないのですが色々な人の線引きを見ているとこのように感じます。
そう区別すると私の立ち位置はネイチャーフォトにおいては写真家、それ以外の分野ではカメラマンということになります。
ありがたいことに山岳写真においては好きに撮影することを許されていて、それがメインの仕事になります。以上のことからクライアントの求めるものや、トレンドを追う作風ではありません。
ネイチャーフォトグラファーとしての作風
「今、ここから見えているもの」それが私の作風です。
フォトグラファーはそれぞれ自分の作風を持っていて、たどり着きたいゴールを設定している人です。私は「自分の目で見た風景を写真にする」ことを強く意識しています。
絶景や奇跡の1枚といったものに興味はありません。上手い写真・キレイな写真を撮りたいとも思いません。目で見たそのままの風景を再現したいだけです。
その難しさに心が折れそうな毎日ですが、試行錯誤を繰り返しています。
撮影技術にルールはない。あったとしても守る必要はない
「自分の目で見たもの」を再現するために色々な技術を組み合わせていますが、未だ答えに至っていません。人間の眼は50mmの画角に近いという説がありますが、構造上そうであっても意識の持ち方によって見えるもの、記憶するものはまったく異なります。
ネイチャーフォトにおいて標準・広角で被写界深度が深い写真が正解だとは思っていません。注視する被写体があれば被写界深度の浅い望遠で撮影した写真の方が記憶に残っている風景と一致することもあります。
メインで14-24mm 24-70mm 70-200mmのズームレンズを使用している理由も、まだまだ試行錯誤が足りていないと感じているからです。画角に関して単焦点のみを使えるレベルに達していません。
また、撮りたい写真のためならば基本を無視することは当たり前なので、なぜそのように撮影したのかをすべて説明できない限りは真似をすることはおすすめしかねます。
写真家ではなくカメラマンを目指すのであれば感性ではなく、論理的な構図の組み立てに加えて撮影手法のルールを守る必要があります。
例えば山が迫ってくるような圧迫感を感じた時、それを表現するために水平垂直を無視してカメラを傾けます。空と山との間を少なくすることでより圧迫感が出る、その時見た光景を後に写真でみたときに同じ印象を持つようにします。
ただ傾けるだけだと構成要素が破綻するため、フィボナッチ黄金比を用いて心理的に「イヤな感じ」が出ないように構図を作っています。このように私が撮影するネイチャーフォトは私が見たものを再現し、表現するために撮影技術を使うというアプローチです。
必要がなければ使いません。
色彩心理学のアプローチが多い
自分が撮りたいと思った風景の何に惹かれたのかを時間の許す限り分析します。
気になった場所で立ち止まり観察を続けて自分の中で答えが出たら撮影を開始します。やっていることは絵画におけるデッサンとほぼ同じ作業で、撮影しているよりも景色を見ている方が長いくらいです。
たとえば有彩色は自然の原理で黄色が一番明度が高く、青が低い。それが際立っている調和を美しいと感じた。そのような考え方です。構図も同じで木と空のバランスや要素の割合が整っているから無意識に惹かれることがあります。
様々な要素の中、最初に目を向けるのが色であることが多く複雑な色の組み合わせをまとめるのが好きなので、結果として朝日や夕焼けの写真が得意という評価を得ています(そういう写真を求められることが多い)。
記憶色を基本としていますので必然的にレタッチの傾向はHDR寄りになります。人の眼は暗いものから明るいものまで捉え心理状況によっても補完の仕方が違いますので山行時のコンディションによって仕上がる写真に違いが出ることもあります。
日頃からデッサンしたりUX・WEBデザイナーとして企業に常駐したりするのは、被写体の構成要素を分解構築する練習であると同時に、ネイチャー以外の「カメラマン」としての立場のときクライアントの利益を最大に引き上げる選択肢を増やすためです。
写真撮影よりも登山が好き
写真が好きで被写体を探すために山に登っているのではなく、山で見た景色に感動したから写真を撮りたいと思った。これが私のネイチャーフォトグラファーとしてのスタートです。奥多摩から始まり、気がついたら8000m峰まで行ってました。
山岳写真は登山と写真撮影の2つの内容になります。山に登る技術と体力がなければ撮影ポイントまでたどり着けることができませんし、撮影技術がなければ理想の写真を追い求めることができません。
例えば長野県が作成した山のグレーティングでは縦走を除く登山で槍ヶ岳が体力面においては最高難易度に設定されています。その山に山岳写真撮影の装備を加えた荷物を背負って登らなければなりません。
私の装備で夏期でも35-40kg。専門の山屋さんでもイヤな顔をする人が多い重量です。なので山が好きでなければ山岳写真を仕事にすることはできませんし、山にこだわりがない人は長続きせずアプローチが簡単で体力面では楽なネイチャーフォトに転向します。
私は写真撮影よりも登山しに行くという考えが強く、登山を楽しむ先に山岳写真があると考えています。
海外の山となると大人の事情で写真撮影がメインになることも多いですが、普段は一度登山して写真を撮りたいなと思ったら再度登り写真撮影をしています。
山岳写真を撮りに行くときは自分が楽しむことしか考えていないので、素敵な氷壁があれば「写真撮ってる場合じゃねぇ!」と登り始めますし、涸沢にたどり着いたら「写真撮ってる場合じゃねぇ!」とおでん食べながらビールを飲みます。
15kg以上の撮影機材を背負っていってるのに1枚も撮らないなんてことは日常茶飯事です。山に行ったからといって成果物が上がってくるとも限らないのでクライアントワークとは相性が最悪といえます。
しかしそのようにして山を観察してインスピレーションを高めていくやり方をしているため必要な作業でもあります。このような「遊んでいるのか仕事をしているのかわからない」スタンスは日本の風土と合わず、せっかくお仕事を頂いてもご迷惑になる可能性が高いため国内での仕事を積極的にすることは考えていません。
他人を巻き込んでいい仕事のしかたではない自覚はあるので、特別なことがない限り単独で山に入り好きなように撮影します。
それを「必要なこと」と受け止めてくれるのは海外が多いので、私のメインフィールドはそちらになっています。
Yamasha Professionalの山岳写真はフリー素材として公開予定
撮影した山岳写真をすべてフリー素材にしようと思っています。
WEBメディアや雑誌などで使用しても良いですし、プリントして飾るのも問題ありません。多くの人に山岳写真との接点を提供できればと思っています。
ただし、写真そのもので利益を得る使い方は禁止しています。例えば写真集、カレンダ・ポスター・ポストカード・ピンバッチなどを作って販売するといった行為です。商用利用の場合はあくまで「素材」としての使用です。
おそらくは日本一規約がゆるいであろうフリー素材サイトPakutasoに管理をお願いしていますので、そちらの規約に従いご自由にご利用ください。
繰り返しになってしまいますが、私は私が楽しむために山岳写真を撮っているので、スケジュールや撮影手法が制限されるネイチャーフォトの仕事には積極的ではありません。
山の写真を撮る専門のカメラマンさんの方が確実にいい仕事をしますのでそちらに発注して頂いたほうが全員が幸せになれます。
写真に名前を載せたくない
私がズレているという自覚がある前提での話なのですが、写真に無駄な情報が付くことが好きではありません。
特に、誰が撮った写真であるかは見る人にとっては意味のない情報だと思っているため、写真を提供する際はクレジット記載をお断りしています。フォトグラファーは被写体がないと何もできないので、そこまで大層なものでもないです。
むしろ名前を載せない方が変な尾ひれが付かないため掲載する側も見る側もシビアな目線で正しい評価ができ、よりレベルの高い写真を求める好循環が生まれると思っています。
業界に入って長いので、不正使用防止のため、著作や出典を明確にするため、集客のため、ニーズのため、色々な理由でフォトグラファーの名前を写真につける必要であることは理解しています。
その上で理想としているのは、ふと目にした雑誌やWEBサイトにいい山の写真載っていたくらいの距離感。その機会をたくさん作れればと思っています。
このようにズレた考え方なので個展などは考えておらず、「フリー素材サイトにまとめておくからいつでも好きなときに見てください、好きに使ってください」というやり方をしようかと思います。
少しだけ写真と登山業界のことは考えている
登山の人口比率と推移を見る限りこのままだと将来の見通しが暗いので、山を楽しむためのコンテンツの充実化は必要と感じています。特に登山者未満の人が登山者になるためのコンテンツは圧倒的に不足しており、大手メディアは既存の登山者のパイを食い合っている現状です。
スマホが主流の今日、情報収集はWEBですし観光地で写真を撮らない方が珍しいでしょう。山岳写真を多く露出させることは登山や山の写真に興味を持つキッカケになると思っています。それが山岳写真をフリー素材にして公開する理由の1つです。
手伝えることは写真を撮ることくらいなので、好き勝手やっていいことを条件に必要経費のみで地方の支援を行ったりしています。ネイチャーフォトを盛り上げるコンテンツへの写真提供なら無料で行おうこともたくさんあります。スケジュールが合う限りはこの活動は続けていければなと思っています。
そこから多くの人がスマホからミラーレス・一眼レフへの興味が移ってくれれば最高。
最近はSONYさんのプロモーションで山荘から山頂まで行く人のためにアクションカムをレンタルする仕組みがあったりもするので、カメラメーカーがスチール面でもガッツリ山に入ってくれると嬉しい限りです。
そんなこともあり気軽にネイチャーフォトを楽しむにはどうしたらいいのかも考え始めました。最近は小型ミラーレスのFUJIFILM X-E3を山に持ち出すことが多くなり登山に負担がない機材でどのくらい写真を追い込めるか検証するのが楽しみの1つです。
プロの立場からしても機材選びはもっと自由に行いたいなと思い始めてるので、メーカーにこだわらない方向に変えていこうと思っています。現在はメイン機でNikonのフルサイズフラッグシップ機、サブでFUJIFILMのミラーレスという構成です。

見通しの良くない登山業界の事情もあり、山を登りながら写真を楽しむ人が増やすために色々と活動しています。このブログもその一貫です。
最近はInstagramを例に、多くの人が企業と繋がり仕事得られる可能性がある時代です。ネイチャーフォトグラファーが増えてくれると私の仕事も楽になり早々に引退できるので、写真撮影の技術や撮影機材を背負って登山するためのテクニックなどを共有・提供するためのコンテンツ作成は考えています。
山岳写真解説ページ Yamasha Professional
ネイチャーフォトに関しては自由でありたいという気持ちが強く、ありがたいことに環境も整っているため無益で豊かなコンテンツを作ってみたかったというのが1番の理由です。
記事を見て山岳写真に興味を持ってくれたり、山に行きたいと思ってくれる人が増えてくれればいいなと思い専用ページを開設しました。
プライベートなので撮影のタイムスケジュールなどは甘めになっていますが、技術レベルは本業の撮影とまったく同じです。
専門用語が多く、写真の基礎など前提条件を省いているので初心者の方に不親切なかもしれません。普段言語化することがないことを解説しているので抽象的です。探り探りやっていくので大幅な変更も考慮してβリリースとしました。
本業との兼ね合いもあるため更新頻度は低めですが、月1回更新くらいはしたいなと思っています。
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