ネイチャーフォトはどのような撮影スケジュールを組んでいるのか、謎に包まれている感じがあります。
趣味でカメラを持ち相手好きな被写体を撮る場合もあれば、狙った被写体のベストの瞬間を撮影するためだけに登ることもあります。
高単価な仕事となると後者になりますので、この撮影スケジュールを詳しく説明します。以前槍平小屋からの槍ヶ岳のルートがおすすめという記事を書きました。よく使う慣れ親しんだルートなのです。こちらの山行で実際に組んだスケジュールです。
被写体は【美しい】と条件が付けられた槍ヶ岳のアップ写真です。

【5:00】出発
前日に新穂高ロープウェイから登山道に入り、槍平小屋でテントを張り一泊します。
40kg程度背負うので1日で槍ヶ岳に到着するのは無理があるからです。ちなみに槍平小屋ルートを使用するのは水場が豊富なので槍ヶ岳へのアプローチまで重たい水を持ち運ぶ必要がないからです。
夜明けとともに出発して午後一番での到着を目指します。
【13:00】槍ヶ岳山荘到着
お昼に槍ヶ岳山荘に到着です。この時間帯までに到着しないと良いテント場を確保できないので14:00までには到着したいところです。テントを設営してザックを放りこんだら早速撮影の準備にとりかかります。
【15:00】撮影スタンバイ
撮影する場所と構図を決めたら日が傾いてくるまでひたすら待機です。大きい三脚を立ててると、そこが撮影スポットだと思われて人が寄ってくることがありますので、こちらが撮影する条件が整うまでは場所を譲ることにしています。
【16:00-19:00】イメージ通りの光が出るまで待ち撮影
この時間帯からが得意分野の時間です。海外で写真を学んだので色彩豊かでダイナミックレンジを使いきった写真が多くなります。PL・ハーフNDを使い分けたり、両方使ったりして綺麗な光になるように画を創っていきます。
ネイチャーフォトに関してはレタッチは最終手段でできることはすべてフィルターを使用することにしています。
日が沈み、僅かな光のみが残る照明条件をマジックアワーといいます。どんな被写体でも魔法のようにキレイに撮れることが語源と言われています。車の撮影や旅館の露天風呂などの撮影によく使われる時間帯です。山に被写体を絞っているときは日が傾き始めてからマジックアワーまで撮影を続けます。
【20:00】夕食
9月に近くなると20:00くらいに日が沈み照明条件が変わらなくなるので、ここから遅い夕食と取り始めます。早い人はもうすでに就寝している時間帯です。被写体が決まっていてガチで撮る撮影のときは食事は軽くて小さいものになります。
よく食べるのがカップヌードルのカレー味とトムヤムクン。登山では塩分が強く味が濃いやつほど美味しいです。リフィルタイプではなく一般的なカップラーメンを持って行きます。ジェットボイルでお湯を沸かすだけで食べることができるので楽だからです。

【21:00-24:00】食事してから仮眠
24時まで仮眠を取ります。食事してからすぐに寝ることになりますがこれはも我慢です。
この3時間でいかに身体を休めることができるかが勝負なので、マット・シュラフ・枕にはこだわります。
マット界のロールスロイスと呼ばれているサーマレストのエアー式マットであるNeoAir Xlite、シュラフは9-10月ならばNANGAのオーロラ600DX、枕はMAMMUTのエアピローを使用します。
ちなみに十分な保温が確保できるシュラフならば服はなるべく脱いで肌着で寝た方が快適です。
1人用のマットだとザックなどを足の下の置かなければならず、睡眠を妨害するので、安眠のためだけに2人用のテントを持って行き、荷物はすべてマットの横(2人目が寝るべき場所)に置きます。
睡眠を撮ることが第一ですが、深夜の撮影準備も行い易いという副次的な高価もあります。
テントは天井にハンモック状に設置できるロフトを購入しておくと便利です。荷物をこの上に追いたり吊るしたりすることで荷物をどこにおいたか困ることもありませんし、結露で濡れることもありません。単独行で愛用してるランタンであるブラックアイアモンドのオービットは紐やループに吊るすことができる構造になっています。テント内での休息時間がラグジュアリーになります。
https://yamasha.net/climb/bd_orbit
【24:00-3:00】夜の山岳写真を撮影
夕方に撮影した場所でのピントの数値を覚えておくか、フォーカスリングをテープで固定しておきます。夜になるとピントを撮ることがほぼ不可能になります。フォーカス精度では最高の部類であるフラッグシップモデルでも無理ですので、普及帯のフォーカスもほぼ全滅だと思います。
山で夜景を撮影するとき、月が出ていると星が見えないので煙たがられますが、雲海のよりも上の標高である3000m以上では月の光が雲海に反射され面白い写真が撮れます。
成功確率が低くても撮る価値はありますし、思いの外クライアントが喜んでくれるかもしれません。
最近は星や雲海の動きをタイムラプスで撮影することも多いので、撮影時間は必然的に数時間になります。
ただ寒い。9月・10月での3000m以上の稜線の夜は普通に気温0度近くに鳴りますし強風です。東京だと真冬+αレベルの防寒具が必要となります。ダウンジャケットの上にハードシェルを着るのはMust要件です。
登山をしない方はピンと来ないかもしれませんが、強風の状況だとダウンジャケットを着てもほぼ無意味です。ダウンは完全防風をして初めて保温力を発揮します。あと鼻と口が冷えるとしもやけなどで大変なことになるので、バラクラバが欲しいところです。
【3:00-4:00】仮眠
朝に向けて仮眠を1時間取ります。朝の撮影が終わったら下山するので少しでも体力を回復させておきたいからです。
登山の事故は下山時の集中力不足で起きることがほとんどなので、眠気を残したまま山を降りるのは危険です。
【4:00-6:30】イメージ通りの朝焼けの光が出るまで待つ
朝焼けから撮影するために日が昇る30分前には現場にスタンバイします。朝焼けと夕焼けは同じような写真が撮れることも多いですが、こと山に関してはまったく違う写真が撮れます。
太陽が出てくると一気に明るくなるので、ベストなタイミングはほぼ一瞬です。
【7:00】撤収・下山準備
太陽が上がり露出が変わらなくなったら撮影終了。急いで撤収準備です。槍ヶ岳から下山を始めるのに朝7:00以降の出発というのはかなり遅い部類になります。
朝食は取らずにテントを畳んでザックに詰め込んで下山します。昼食までは携行食で乗り切ります。新穂高から帰るなら槍平小屋・上高地下山ならば槍沢で昼食をとります。
ネイチャーフォトは激務か激暇です
撮影条件が整っている場合、ネイチャーフォトグラファーは寝る暇がありません。逆に土砂降りの場合は1日中テントに篭って読書したり、地図と天気図をにらめっこになります。
数日間被写体の前でキャンプを貼るときは夜寝れないかわりに、撮影条件が変わらない昼間の10-15時の間に睡眠を摂ることになります。
ネイチャーフォトグラファーは晴れてれば仕事、天気が崩れれば休日です。休日といっても基本は山の中なので何もやることがないので、自然が好きでなければキツイ仕事になると思います。
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