白馬岳 山岳写真 -夏山-
北アルプスの中でも比較的初心者向けと言われている白馬岳。猿倉ルートは真夏でも溶けない大雪渓をアイゼンで歩くことができるバリエーション豊かなルートで撮影ポイントも豊富です。
足元は0度、気温は35度。その世界から始まる夏にしか見ることができない白馬岳の表情を富士フィルム X-H1とNikonD4Sの2台を使って撮影してきました。

白馬大雪渓は2時間の歩行となる徐々に傾斜が上がっていく。夏はガスが出やすいため視界不良で目的地を見ることができないことがあります。その中で時々現れる晴天が作る白と青の緑の白馬岳特有の美しさが登山者を魅了します。

希望に満ちた大雪渓の登り、しかし振り返れば一転ガスに包まれた過酷な状況に抗う登山者を見ることができます。吹き抜ける風は雪渓で冷やされて低温であり、ガスに包まれた登山者の全身は濡れ、髪から水滴が滴り落ちます。レンズも結露し撮影することもままなりません。
この状況では彩度は失くなり色あせた世界になります。それを表現するために使用したのがFUJIFILM X-H1に搭載されたフィルムシミュレーション「エテルナ」。超低彩度でシャドウを階調豊かに表現できるこのプロファイルとガスに包まれた状況の相性は抜群です。

大雪渓を歩き切った安心感と、その下に潜むスノーブリッジ。常に危険が隣り合わせである山の厳しさを教えてくれます。
雪渓の山の岩肌がガスに吸い込まれていくことで自然と視点は今まで歩いてきた雪渓に向います。
1つの収束点に向う曲線を作るために超広角レンズを使用することで遠近感の演出ができ、また撮影者と、それを見た人の受け取り方を合わせることができます。
白馬岳の登山道から見える北アルプスの山々を猛々しさを出すために石や岩などの硬質なものにビジュアルウェイトを置いて重厚感を出します。
その上で山の厳しさの象徴でもある傾斜を、雪渓を対角線上に配置することで表現しています。
超広角レンズは「要素が入りすぎる」という弱点があるため、岩と岩肌だけの構成だと煩雑になります。その間に白と緑の軟質の要素を入れることでコントラストを作ってメリハリをつけています。

岩肌に寄り切った構図。その重厚感や重さ・硬質感を出すために最適なのがフィルムシミュレーション「クラシッククローム」。階調が硬く彩度が低いため曇天の山では使い勝手が良好です。

FUJIFILMのVelviaの個人的な好みの使い方。夕方など暖色シーンで若干の露出アンダーで撮るときに出る色味。これは心情に訴えかける色で、哀愁感・牧歌的といった雰囲気を作ってくれます。
特に日差しが直射ではなく雲に掛かってディフューズされ軟質の光になるとき、その魅力が最大化されます。

緑と岩と雲と空。その調和のトータルバランスとして稜線を表現したい時に選択したいのがフィルムシミュレーションPROVIA。FUJIFILMではスタンダード。
スタンドードといいつつかなり彩度が乗るのですが、Velviaのようにコントラストを上げてシャドウを潰さないのが使い勝手のいいところ。自然のもつ色の美しさとディテールの両面のバランスを撮りたいときに使える色味です。
立体感の表現の1つとして奥に行くほど青が強くなる空気遠近法が成立するように奥の稜線を意識的にレタッチしています。

白馬岳から白馬大池方面に向かう稜線。晴れている状況では稜線が続く見え方をするの一般的な稜線に見えることが多いのですが、奥に続く稜線がガスで隠れることで一気に断崖絶壁の高度感が出てきます。
雲の状況が変わりやすい夏山ではこのようにシチュエーションを待って意図した効果を狙いやすいです。

夏の空独特の舞い上がる雲、霞がかった稜線。ゴーストもフレアも意図して入れれば夏を想起させる要素となります。

白馬岳のなだらかな稜線の奥に見える剱岳。その間に入る雲がより遠近感と広大感を作っています。

白馬岳から見える日本海。その存在を太陽の光の反射だけが形つくります。

日が落ちてきて空の光量が少なくなり、海の反射面が強く出始めると海の水平線がわかるようになります。

白馬岳からの眺望を楽しむために集まってきた登山者。山の大きさ、人のちっぽけさを出すために距離感を作った上で、写真上では小さくしか写らない人に注視するライティング条件を待ち切り取っています。

夏の空気を感じる立山連峰の稜線を夕焼けの始まり。霞がキレイに出ているので、その柔らかさを残すため開放のF値を使用。

白馬岳から見る杓子岳と白馬鑓ヶ岳。方角は南に位置するので夕日が構図の中に入ることなく雲に夕日の色が強くのります。
フィルムシミュレーションはVelviaを使用しコントラストを強く出して山肌のシャドウを潰し気味にすることで夕焼けを強く印象づけています。

日が暮れるにつれ、入射角がついていくのでコントラストがどんどん強くなっていきます。あえてアンダー目で撮ることで足元の岩が光りだし、夕暮れの稜線の世界観を表現できます。

夏の北アルプス・白馬岳とはどんな山なのか。それを1枚の写真にするならばと選んだのがこの写真。過酷な北アルプスという場所にありながらも多くの登山客に愛される山。霞がかった先にある剱岳と立山連峰。湿度の高い条件で発生する真紅の空。たくさんの要素が入り交じる複雑なものになりました。

東側の明かりは失くなり、西側に残光が少しだけ残り剱岳のシルエットと空の赤だけがうっすら残る景色。山の一日が終わる哀愁感があります。

白馬岳の山域の朝。まだ日が昇ったばかりなのに蒸し暑さ身体を包み、猛暑の1日を予感させる。光芒が差し込みながらも熱で空気が揺れはじめてめている夏山。
使用したフィルムシミュレーションはASTIA。スタンダードのPROVIAに近い彩度でありながら全体的な階調は柔らかい、しかしシャドウは少し硬めという特徴があります。
あるところを硬く、全体の雰囲気を揺らしたいときに使いやすい色です。

山と街に降り注ぐ光芒。高い気温で揺らいでいる空気感と水墨画のような山々のシルエットの表現に適しているのは超彩度・シャドウトーンが豊かな「エテルナ」。
白馬岳は様々な山稜と顔を持つ
白馬岳は様々なルートからアプローチができ、稜線も色々な方角に広がります。そして富山側には立山連峰をのぞくことができる。
それをどう切り取るかは昇ってきたルートに強く引っ張られると感じました。通ったこともないルートよりも自信の足で昇ってきた方角に意識が向きます。一度の撮影ですべてを捉えることはできないのでこの山の本質を理解するためには様々なルートから登る必要があると感じました。
そしてとてもよく「動く」山でもあります。稜線の流れであったり天気であったり、日差しによる表情の違いであったり。主題となれるものが無数になるため、何を撮りたいのかを定めることは必要です。
今回私が撮ったのは夏にしか出ない「空気と色」。そのためフィルムシュミレーションが豊富なFUJIFILM X-H1をメイン機にして様々なアプローチから自分が見て感じたものに近いものを選択してからレタッチを開始しました。
今回は着想としょっとしたアプローチのご紹介でしたが、構図の組み方やパノラマ写真からの被写体の選び方などを後日ご紹介予定です。