蓼科山山岳写真 -厳冬期-
北八ヶ岳の中でも独立峰のような形が特徴の蓼科山。独立峰のような形になっており山頂からの景観の良さと強風が特徴的な山です。人が立ち入ることが少ない厳冬期、氷点下の澄み渡る空気による八ヶ岳ブルーと吹き荒れる強風の世界をFUJIFILM X-E3とNikon D4Sの2台で撮影してきました。

蓼科山女乃神茶屋ルートの入り口は豊かな樹林帯の中を通り、厳冬期でなお青々と萌える笹の道を辿っていく。日の出の光が木々の間から差込み笹を照らし出す。素晴らしい山行を予感させます。
明度の高い雪が暗く、日に透ける緑が煌めく。日常生活で見慣れたナチュラルカラーハーモニーとは真逆の色彩が非日常の始まりを告げます。

岩と雪のモノトーン。山の中に踏み入るにつれて徐々に色を失っていく。けれども歩むべき道は拓けている。静謐の中、雪を踏みしめる音が耳に心地よいです。
広角はシャッタースピードに余裕があるときは深めの被写界深度を取ることがセオリーですが、浅い被写界深度を使い奥にピント合わせることで「今、自分が見ている景色」を表現します。

森林限界に近づくと木々は霧氷の装飾を帯びはじめます。露出のプラス補正と逆光でフリンジを作り出し霧氷に紫色を装わせます。

冬の蓼科山は風が吹き抜けたるたび、八ヶ岳ブルーの空に雪が舞い上がります。
風を待つ作業もネイチャーフォトの醍醐味の一つ。瞬時にピントを合わせ構図を決める作業は小型軽量ながら実用レベルのファインダーがあるミラーレスFUJIFILM X-E3の得意分野です。

氷点下15度の冷気で舞った細かな雪は乱反射し青に煌めきを与えます。冬季しかできない空の表現。

白く覆われた蓼科山と彩りを変えることがない茅野の町並み。霧氷から覗き込むように八ヶ岳と街を見る構図で、自分が山にいることを明確にしています。

山頂から見えるのは、どこまでも広がる深い青、その先に佇む北アルプス。奥行きのない平面な構図にすることで主題の空に注視している情景を表現。

蓼科山は決して登山者に優くはない。吹き荒れる強風が、冷気が身体を凍えさせる。それを岩から舞い上がる雪の白煙が象徴しています。厳冬期の山でしか見ることのができない景観です。
背景をぼかさずに深い被写界深度を使用することで、山と街は世界が違うということを表現しています。

蓼科山山頂を構成する岩を精細に描写し空気感を表現できるヌケの良さがあるNikon AF-S 24-70mm F2.8E VRを使用しました。
PLフィルターはレンズの解像力を落とさずに青の色を表現できるKenkoのZX C-PLを使用。
遠くから見ると小さな岩の集まりにしか見えない蓼科山山頂を、ローアングルで足元からの構図を撮ることで実際の大きさが伝わるような構成にしています。

森林限界を超えた山頂にも木々の息吹を感じ、強風にさらされ雪に埋もれながらもなお存在感は色あせない光景が印象的でした。

厳冬期の蓼科山は風に舞う雪の山。美しさも厳しさもすべて雪と風が作り出す。舞い散る雪の粒子の1粒をNikon AF-S 70-200mm F2.8 FL VRで切り取り、光の粒状感を構成ました。理想通りに解像し表現しきる秀逸なレンズです。

主峰赤岳をはじめとする八ヶ岳連峰を一望できます。山脈を切り取るだけだと「白い岩」という印象があります。しかし実際は雪深き険しい山です。今自らが立っている雪山の景色を取り込むことで、より標高の高い山へのイメージを駆り立てることを意識しています。


美ヶ原・霧ヶ峰の奥にそびえ立つ北アルプス。槍ヶ岳と穂高連峰が印象的です。あえて人工物を入れることで北アルプスの不可侵、荘厳さを表現しています。

自分の足元から広がる世界を表現できるのが超広角レンズの魅力。八ヶ岳ブルーとモノトーンの対比が美しい。
広さを伝えるためには遠近感の構成が必要です。足元の岩稜地帯から街までを入れて1つの奥行きを作ることで壮大は空を構成しています。

蓼科山中腹、夜の始まり。冬の夕暮れの時間は短く夏とは違い哀愁感があります。
X-E3のファインダーを覗き込み、ゆっくりと息を吐く。氷点下15度の外気に冷やされ生じた湯気が局所的なソフトフィルターになり、夕日を演出するします。ネイチャーフォトで使われるテクニックの1つです。

日が落ちて月明かりに照らされる登山道。浅い被写界深度を使用することで、夜では見通すことができない登山道の雰囲気を作っています。美しさの反面、少しの恐怖がつきまといます。
蓼科山は街と名峰に囲まれた山
蓼科山を撮影して感じたのは、写真として切り抜くことができる要素がとても多いことです。自然だけを切り取ることもできるし、街と合わせて世界を作ることができます。八ヶ岳主峰・北アルプス・中央アルプスとバリエーションは様々です。
蓼科山が登った人が心に残るものは何か。それを表現するときに選んだのが周辺の山々や街の存在です。登頂した人の多くが赤岳や槍ヶ岳を見て様々な思いを馳せ、茅野の街を見下ろして自身が歩いてきた達成感に浸るのではないでしょうか。
夏山とは違い極寒の中の強風は登山者に厳しいのも蓼科山を撮るには欠かせない要素です。
その2つを写真に落とし込むことを目標に撮影したのが今回の撮影です。
霧氷と空など、道中に撮影する機会も多かったためザックのショルダーハーネスに取り付けられ機動力の高いFUJIFILM X-E3の出番は多く、小型ミラーレスのありがたさを実感しました。
山頂付近の岩稜と空やアルプスを組み合わせるとき、キットレンズであるXF18-55mm F2.8-4 R LM OISだと求める空気感の表現にはあと一歩足りず、Nikon D4Sと24-70mm F2.8E VRと14-24mm F2.8Gの抜けの良さと解像感は作風を追求するためには必要だと感じました。