広大な景色を写真で表現したい。ネイチャーフォトを撮影する人の多くがそう思うのではないでしょうか。
そのために広角レンズを使ってみたけれど中々上手く撮れない。それも誰もが経験することだと思います。
それを解決する技術の1つに遠近技法があります。
今回ご紹介するのはその発展形である線遠近法にライティングと色彩学を組み合わせた撮影アプローチです。
レベル的にはかなりハイレベルで難しい内容ですが、私が山岳写真で使うメイン技術の1つで汎用性も非常に高いです。
しっかりした山岳写真は出すことができない(大人の事情)ので撮影機材テストを行った北海道旅行での写真で解説します。

写真撮影での線遠近法の基本
写真は絵画とは違い自身で描くことはなく、被写体を撮影するため基本的に自然の法則がそのまま適応されます。
よって写真による遠近法は正確には遠近表現であり、遠近感を作っているエッセンスを強調して写真の構図に当て込んでいくという考え方になります。
例えば目で見た景色は奥行き感がありダイナミックな感じだったのに写真にしたらのっぺりで平面的なイメージ担ってしまったということはネイチャーフォトを始めたばかり人の誰もが通る道です。
そんなときは風景の中から遠近感を出しているもの、具体的には消失点を意識して探してそこに注視させるように構図を組み立てると奥行き感のある写真になります。
これが風景写真における線遠近法の基礎アプローチです。
つまり「線」が重要になります。それを捉える着想や思い通りにコントロールする技術も習得に時間がかかる難しいものなのですが、更に踏み込んでその「線」を創り上げる手法をご紹介します。
24時間の中で撮りたいシーンはいつの時間に訪れるのか
被写体を見て「どう撮影しようか」とアプローチするのではなく「いつ撮ろうか」と考えます。なぜなら現在の時刻が最も美しいとは限らないからです。
よってまずは被写体を分析します。
作例では遠近感をテーマにしているので、どの部分が遠近感を演出しているパーツであるかをまず調べます。
ではここで遠近感を作っている主なパーツは歩道と岬のシルエットの2つでわかりやすいですね。
この要素を使い構図を探していきます。
この要素が組み合わせさってより奥行きが出るように構図を作っていきます。遠近感や距離感の作り方でポイントとなるのが自分の立ち位置と被写体までの距離を明確にすること。
具体的には自分の場所を写真に落とし込むことです。作例だと最初のものより構図を変更したあとの方が「階段に立っている自分」を意識しやすいと思います。
それにS字の構図を代表するように、終点までの線の長さを伸ばすことで距離感を作っています。
手前の階段の面積が大きく奥に進むに連れて細くなっていくことから強いパースがかかり遠近感が強調されているのもわかります。
足元から構図を作るときは空間面積を考慮する
奥行きの表現をするために足元を利用しています。この技法には遠近感の表現には向いているのですが1つ難点があります。
それが写真の面積を大きく使ってしまうこと。作例では画角は20mmを使用して極端なパースはかけていませんが、これを14mmのような超広角レンズを使用すると写真の7割が足元になってしまうことがあります。
もちろんそこに主題があるのなら有効は技法ですが、遠近感を作るためだけにそれを行ってしまうのは本末転倒です。
ダイナミック感が出るだけで何を撮りたいのかを伝えることができなくなります。
今回は岬を撮るのであって歩道や階段を撮りたいわけではないので本番の撮影では修正する必要があります。
これでひとまずはロケハンでできる遠近感を構成している要素の切り出しは終了です。
ここから遠近感を作っている要素にどんな光が当たれば理想的な「線」になるのかを考えます。
そのときに便利なのが色の知識です。
着想を得るための知識の1つ「色彩学」
写真は2次元で表現するもの。プリントもモニタも基本的には色の点の集合で表現されています。
つまりすべてが色で表現されているので、目を引くもの、シャープなもの、そういったオブジェクトをすべて色の組み合わせで説明できてしまいます。
どの色の組み合わせがどのような効果を生み出しているのか。それを論理的に使用して写真を組み立てるために必要なのが色彩学です。
まずこの写真で「線」を構成している色を抜き出します。
灰・茶・緑の組み合わせで「線」が作られていることがわかります。ではこの線がどのように変化すれば強調されるのかを色で考えます。
視認性と誘目性
人の目を引く色の組み合わせとはどのようなものか。
大きく分けて見やすさの視認性、自然に目に付く誘目性の2つです。この2つを使って線を考えてみます。
まず視認性は明度差(明るさ)が基準になります。次に彩度差(鮮やかさ)。
例えば有彩色で一番明るい黄色と、無彩色の一番暗い色の黒の組み合わせは人の暮らしの中で最重要である危険や注意の看板などで使われています。
カラーチャートを見てわかるように、有彩色は暖色(黄色・オレンジ・赤)が明るく、寒色(シアン・青)などが低くなります。
ここで明度差がある組み合わせが線として視認しやすい色の組み合わせになります。
もう1つの誘目性というのが人が自然に目に入れたくなってしまう色のことで、基本的に彩度に依存します。
よって有彩色の中で最も彩度の高い赤・オレンジ・黄色が入っていると望ましいということになります。
ロケハンした段階では視認性に優れる「線」ではないこと、そして写真のどこにも誘目性が強いものがなにことがわかります。
ゆえにオブジェクトだけみれば奥行き感がある写真だけど、のっぺりした感じになってしまっています。
しかし自然の色味を自分でコントロールすることはできません。
よってシルエットやオブジェクトでの遠近感に加えて、色彩による遠近感を組み込むときに考えることは「どの時間に撮るか」という考えに至ります。
では明度差と彩度差があり、視認性と誘目性に優れる「線」になるのはいつなのか。そう、赤い光が差し込む朝日か夕日です。
光を読み理想の景色を予測する
写真を撮る上で最も難しく、もっとも面白いのが光を読むという作業だと思っています。
遠近感を強調するラインを作るために色を組み込むと決めたので、どこにどの色が入るかを考えます。
そこで注目するのがコントラストと無彩色の存在。
日差しが差し込むとどのようなコントラストが出ると考えたときに重要なオブジェクトになるのが手摺と柵です。ここに横からの光が入ればキラッと光る感じになります。
それができれば白と黒のコントラストになるため明度差によって視認性が向上します。
そして次が無彩色(白や灰など)。良くも悪くも無個性な色なので太陽光に引っ張られます。例えば朝日や夕日なら白が赤になる。そういう予測ができます。
太陽が登ってくる方角は東なのでざっくりとは予測できますが、もう少し精度を上げるためにVR機能が付いているスマホアプリを使います。
日の方角確認に便利なスマホアプリを使用する
スマホアプリのPhotoPillsを愛用しています。
VRによる太陽や月の動きだけではなく、画角による過焦点距離の計算など色々なことができる写真撮影サポートアプリです。
これで日が登ってくる位置を予測して構図を組み立てていきます。
日の出の位置を確認すると階段にキレイな光が入ることがわかりますので、その領域を大きく撮ることで赤色のラインを作ります。
そして位置的に見ても手摺にキレイなハイライトが入り、岬の西側はシャドウで潰れる。よって明度差・彩度差の両方が確立して視認性や誘目性に置いても完璧な「線」が出来上がると予測しました。
予測を元に撮影
撮影したのは午前の4時ちょうど。予測した通りの光の差し込みが入っています。
無彩色の階段は赤く染まり、手摺にハイライトが入り、岬の西側にシャドウが落ちキレイな狙い通りの「線」が出現しています。
色彩からみても視認性と誘目性に優れたカラーコーディネートです。
太陽自体もキレイに出ており誘目性が高い存在になっていたので、手摺から始まり太陽に視線誘導しながら岬の先まで視線誘導するオブジェクトとして組み込みました。
反省点としてはもう少し奥の手摺にもハイライトが入ると思っていた点。予測の失敗です。
海の撮影に関してはまだまだ精度が甘い結果となりました。
光を読んで「線」を作ってみよう
今見ている景色を切り取る写真ではなく、その被写体がもっとも美しくなる時間帯を予測して狙い撃ちするテクニックです。
この予測がどれほど正確にできるのかがネイチャーフォトの技術の1つの到達点ではないかと思っています。
このアプローチは光を読んでライティングを行い、そこに色彩学の理論を組み込み、遠近のラインをコントロールする複合技術で私もまだ勉強中です。
今回はあくまで「線」にこだわりましたが色彩学からのライティングに加えて、空気遠近法を組み込んだり、黄金比やフィボナッチを組み込む、スローシャッターで反射面や雲の流れを作るなど様々なアプローチと組み合わせることができます。
そういった技術の組み合わせは基礎と理論の自動処理の上に成り立つものなので、概論に興味がある人はこちらのnoteをご覧ください。
海を撮影しながら感じたことですが、岬や半島の撮影は山の稜線と似ているので山岳写真の練習としても有効です。
このように光と色彩をコントロールすることで構図の取り方は幾様にも変化します。撮影したい写真をイメージすることでいつ、どこで、何時に撮影すればいいのかが分かるようになります。
気軽に行える撮影手法ではありませんが、ネイチャーフォトで新しい撮影方法を探している人は挑戦してみてください。

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