カメラの出番といえば旅行。観光地や旅の思い出を撮影するために一眼レフを持っている人でしたら多くの方が持ち出すのではないでしょうか。最近では一眼レフやミラーレスが手軽に手に入り独学で勉強する機会も増え、いい写真を撮るために旅行をする人も増えてきました。
初めての土地、初めての被写体。自分の納得できる写真が撮れるかわかりませんし、どのようにスケジュールを組めばいい写真を撮れる可能性が高くなるのか。そんな悩みはついて回ります。
今年の6月に岡山県鏡野町のご協力のもと、初めての土地で仕事としてネイチャーを撮影してきました。写真を撮影してクライアントに納品する、そういう品質が求められる中での私の撮影ワークフローをご紹介します。
よって写真撮影が目的で旅行する人向けの内容になります。
レタッチ技術はこちらにまとめてあります。

個人かチームかで撮影は違う
仕事として写真を撮る場合、クライアントの利益が最大になるように撮影するのがプロにとって必要なマインドです。そのための撮影スタイルは大きく分けて2つあります。
個人で撮影
1人で撮影するのであればすべての撮影現場を自分が担当します。すべてが得意分野で経験豊富なものであるならば、そのために必要な機材を選択すればいいのですが、現実はそう甘くなく得意・不得意・未経験の撮影になります。
そうなると必然的に汎用性の高いレンズを使用することになります。単焦点よりも低倍率ズームレンズ。タイムスケジュール次第では高倍率ズームレンズも視野にいれます。
個人で旅行される方はこれと同じくフットワークのよい機材を選択することをおすすめします。良い機材よりも撮影機会、ベストよりもベターという考えが一番満足度の高い写真になります。
チームで撮影
チームでの撮影は役割分担と信用が全てです。いい写真を撮るのが私である必要はありません。結果としてクライアントが満足する写真が撮れればいいので、極端な言い方をするとアシスタントに徹するのも1つの選択です。
私は海外のネイチャーフォト部隊にスポット参加することも多いのでクライアントワークスとしては単独よりも慣れている撮影現場かもしれません。
今回鏡野町で撮影に参加したメンバーは私を含めて3人。
事前の打ち合わせでポートフォリオを拝見してどのような撮影手法なのか、どの分野が得意なのかなどの意見交換を行い、担当セクションを決めていきます。ここで重要なのがパートナーとなるカメラマンが信用できる人かの判断です。
その人が得意としている分野があったとしても、他の人がその人よりも上のレベルにいるのでしたら撮影現場は譲るかアシスタントになるかの判断が迫られます。
今回はすごく腕のいいカメラマンさん2名だったので、私はネイチャーフォトに専念し他のすべてはサブ要員に回りました。よってマクロレンズとスピードライトは持っていきませんでした。
このように友人たちとの撮影旅行であれば役割分担をして自分がどうしても取りたい被写体に合わせて機材を投入するやり方もあります。
使用機材はすべて登山用ザックに詰める
テントを張って撮影拠点を作るわけではありませんので、普通のリュックや撮影用リュックでも十分です。私は山で使い慣れているという理由だけでMAMMUTのHeron Pro 85Lに機材を入れました。
使用した機材
- Nikon D4S
- Nikon 14-24mm F2.8
- Nikon 24-70mm F2.8
- Nikon 70-200mm F2.8
- Sigma 85mm F1.4
初めてのロケ地ということでメインはズームレンズ。それと別案件でのポートレートに使用する85mm F1.4の合計4本体制です。

初日はロケハンに徹する
撮影日数にもよりますが、2泊3日の日程で撮影現場を1日ですべて回れるならば初日はロケハンに徹します。これは私の経験になりますが、初日がどれだけいいシチュエーションであっても1カ所で長時間撮影をするよりも、すべての現場でいい構図や光源の確認をしたほうが結果としていい写真が多く残せる可能性が高くなります。
ロケハンで三脚は使わない
撮影現場に入ったらISO感度を上げて被写界深度も高めにします。それで手持ちでバシャバシャ撮っていきます。ISO感度は10000以上も使用します。
スマホで撮影したのと変わらない程度のクオリティです。最終的にいい写真を撮るためにどのポイント・構図・画角・被写界深度が必要なのかの分析に費やします。
日差しの方向をチェック
ネイチャーフォトで一番大事といっても過言ではない太陽の光。日照条件によって作風も変われば撮影難易度、機材も変わります。滝や渓谷であれば日が昇っていない時間帯ならシャッタースピードが上がりすぎないためスローシャッターが使いやすいです。
逆に南中している状態だと光量が多いのでスローシャッターが使えません。その際はNDフィルターなどの機材が必要になってきます。
どの方角から光が被写体に当たるのか、当たらないのか。朝・昼・夕、選ぶとしたらどの時間帯が一番いい写真が撮れるのか。そういう条件を洗い出していきます。
その際に使用してるのがSUUNTOのSPARTAN ULTRA。時計を着用して自分が今どの方向を向いているのかをひと目で確認できます。表示されているのが自分が向いてる方向で、赤矢印が北を表示しています。
多くのアウトドアウォッチは時計の上が北に固定されているものも多いためのでSUUNTO SPARTAN ULTRAの表示の仕方は写真撮影には役立ちます。
私がネイチャーフォトでのロケで必ず決めることは2つ。多くのシューティングポイントを探すことと日照条件。この2つを把握しておかないと全体的にまとまった品質にすることが難しくなります。
宿泊施設に帰りロケハンの写真を確認
翌日の本番の撮影に向けて撮影ポイントと構図・使用するレンズを決めます。どのレンズを使用し、どの画角を使用したのかの確認はLightroomで行います。また被写体がどのくらいのヒストグラムになっているのかも確認しておくとレタッチの際にどのくらいの修正ができるのかの参考になります。
2日目から撮影開始
初日のロケハンで組んだタイムスケジュールを実行します。私の場合は大きく分けて3つの時間帯、夜明け〜朝、朝〜昼、昼〜夕方に分けます。
鏡野町での撮影は夜明けに白賀渓谷、昼に岩井滝、夕方に奥津渓という撮影スポットを設定しました。
夜明けの撮影:白賀渓谷
選んだ時間帯は午前4時半から6時半までの日が昇り切る前。彩度を強く出し、スローシャッターを使用したかったため直接光は回避するのがセオリーです。
色温度はレタッチである程度修正することができますが、自然な色としては午前中は寒色系、夕方は暖色系になるのは感覚でわかると思います。私の中では白賀渓谷は寒色系の色でした。
超ローポジション+超広角
沢が小さい渓谷では水流の中に入っての撮影も有効です。そこから更に超広角レンズを使用してローポジションにすることでパースが強烈にかかりダイナミックな表現をすることができます。
どのくらいの広角かというと15mm。さらに水平出ししたら三脚の脚が構図に入ってしまうくらいの、ほぼグランドポジションです。当然水しぶきが飛んできますのでボディもレンズも濡れます。レンズクロスは常に携帯しましょう。
川の中に入れてもブレない三脚はかなりの重量と剛性が必要です。私は現在このようなネイチャーフォトにはGITZOのシステマチック三脚5型に、マンフロットのギア付き雲台405を組み合わせて使用しています。
センターポールを初期装備から外すことで得られる剛性のある三脚と、ロックしてから角度を調整できる雲台の組み合わせは現状私が考えうる限り最強のネイチャーフォト用三脚セットです。


ネイチャーフォトにおいて三脚や雲台の水準器だけではアテにならないのでホットシューに装着できる水準器は必須です。これは安ければいいというものではなく、粗悪品を使うと精度が悪く水平が出ないこともあります。
私は少し割高ではありますが、HAKUBA 2ウェイレベラーを愛用しています。
PLフィルターは作風を決めてから使用するか判断する
ネイチャーフォトにPLフィルターはあると便利ですが使い方次第です。考えもなしに「彩度が上がる、反射面が抑えられる」という使い方をすると痛い目を見ることもあります。
上の画像はネイチャーフォトでのPLフィルター有り無しがわかりやすい例です。岩の表現と水流の流れがまったく違うものになるのがわかります。
岩の質感と水の流れを強く出したいならPLフィルターを使わない方がいいですし、岩の苔を写し出して渓谷としての全体感を出したいなら使用したほうがいいと思います。
山岳フィールドでもフィルターをつけっぱなしで撮影している人を多く見かけますので、時々はフィルターを外してみてどのように写真が変化するのかを見比べてみると更に撮影の引き出しが増えるでしょう。

朝から昼の撮影:岩井滝
前日のロケハンで鏡野町の岩井滝を6月に撮影をするならば午前中から正午前がベストと判断しました。新緑と滝の調和が一番キレイに出る時間で、この季節にしか撮れないものだからです。
朝一番の岩井滝。日が上がっていないため緑の色が深く、滝のコントラストの上々です。滝と回りの緑とのバランスを取る構図を考えていました。そのコンセプトならありな選択ですが、もう少し華やかな印象にするために日が昇るのを待ちます。
正午前の陽の光が滝の水流、岩肌に直接上あたり岩井滝の特徴を出すと共に、新緑の葉が日に透けることで緑の世界観も表現できます。下から撮影すると逆光気味になるのでハレーション対策をするか、意図的に出すかの判断が必要になることもあります。
滝だからとスローシャッターにこだわる必要もなく、色々なアプローチをしてみると思わぬ発見があります。荒々しさを出すのであればあえてISO感度を上げて超高速シャッターで切ってみるのもよいかと思います。
滝の撮影のコツは「特殊な条件を探すこと」。滝の写真を撮ることが今回のお仕事ですが、滝を正面から撮ることにこだわる必要はありません。被写体のよいところ、美しいところを探し出して表現するのがフォトグラファーの仕事です。

多くの観光名所はカメラマンによって美しく見える構図が発見されていてネットでいつでも見つけることができます。それをベースにしたり真似をすれば安定した写真は撮れますが、引き換えに発展性がなく実力が停滞してしまいがちです。
ファーストアプローチでプロの構図をなぞってみるのは有効ですが、それだけにとどまらず自分が思う美しい構図を探してみると撮影技術の引き出しを増やすことができます。

岩井滝は水量が少なく、滝の裏に回れるのが特徴です。今回の撮影時期は特に水量が少ない時期で普通に撮影すると水の流れの表現ができなかったため、太陽光を使用して水の流れが見えるようにスローシャッター+縦位置でもアプローチしてみました。
夕方の撮影:奥津渓
ソフトバンクのCMにも起用された美しい渓谷。紅葉シーズンでは多くのカメラマンが訪れます。撮影時期が6月という新緑の季節でしたので、主題は木々ではなく渓谷にしました。
撮影の時間帯は16時〜17:30。事前のロケハン上から見下ろす構図が多かったため、日中の照明条件だと順光になり岩のディテールがキレイに出ないからです。
ネイチャーフォトは少しの時間で印象がまったく変わる
特に山間部などはちょっと日が傾くだけで陰影の出方やコントラスト、露出が大きく変わります。その中でベストな一枚を撮るために1日同じ場所で待機できるかどうかが、ネイチャーフォトグラファーの適正だと思っています。
鏡野町の奥津渓のような温泉街から近くにあるような渓谷でしたら楽しく待機できますが、これが厳冬期の北アルプスやヒマラヤになってくると胆力のいる作業になります。
写真撮影にこだわる旅行も面白い
同じ観光地に2日間滞在して初日ロケハン・翌日撮影というスケジュールは写真撮影の引き出しを増やしてくれます。ロケハンで撮れるであろうと予測した写真をその通りに再現する技術などは、感覚をロジカルなアプローチで再現するプロ寄りの技術になります。
この作業の精度が上がるとタイムスケジュールやクオリティコントロールの精度が高くなり、仕事として写真撮影を任されたときの自信にも繋がります。
今回は初めての土地、初めての被写体で2泊3日での撮影。ちょうど撮影旅行と同じような条件でネイチャーフォトをしてきたので、職業フォトグラファーとしていい写真を撮るためのワークフローをご紹介してみました。
もちろん合間合間に観光をし、山田養蜂所ではちみちソフトクリームを食べたりと鏡野町を満喫してきました。その際は気楽にスナップ撮影などを楽しんでいます。
観光もしながら本気で撮影をする時間も作る。そういう旅行も楽しいと思います。関西圏・中国地方にお住まいの方でネイチャーフォトが好きな方にはおすすめできるフィールドです。
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