障がい者や高齢者が登山と写真を楽しむための人材育成と研究を大学ですることになりました

今年の夏から信州大学に協力し、長野県庁・観光庁などアカデミックや行政の連携による山岳フィールドの研究にジョインすることになりました。

目的は身体障がい者の方や高齢により身体の自由が効かなくなった方々が山を楽しめる「ユニバーサルツーリズム」をご提供すること。そのための仕組みを作り上げることです。

今年から長野県のすべての山域を駆け回ります。本業のネイチャーフォトグラファーと山岳研究のお仕事に加えもう一つお仕事が増えた形になります。講師も少しだけ担当します。

平成30年度「産学連携による観光産業の中核人材育成・強化事業」「山岳観光資源を活かしたユニバーサルツーリズム(UT)推進人材育成事業」というお硬いプロジェクトですが、誰もが安心して山を楽しむための環境をつくり、そのための人材を育成していくという趣旨になります。その「誰もが」には高齢の方・障害のある方ももちろん含まれます。

登山やアウトドアは健常者の特権というイメージが強く当たり前になっている、その日本的な考え方がおかしいことに気づいた。というのがスタート地点でした。

写真家であり山屋でもありますが、私の正式な肩書は研究員。I know that I do not know anything を理念に掲げる研究機関の所属です。その立場から日本で自分にできることを模索した結果、登山、トレッキングを楽しみたいけれど、それが現状叶わない人たちのサポート体制を国・自治体レベルで作り上げて民間企業を絡めて組織化することでした。その活動をされている方々とコミュニケーションを取り今回のプロジェクトに参加することにしました。

障がい者のアウトドアサポートを行うAta Allianceとの出会い

ata Alliance代表 中岡亜希さん

そのきっかけになったのが2年前に登山のイベントで出展されていたata Alliaceさんとの出会い。

代表は日本航空の客室乗務員であられた中岡亜希さん。就業中に進行性の病が発症し現在は車いすの生活を送りながらも自身が、また同じような境遇の方もネイチャーフィールドを楽しめるようにと世界を駆け巡り、その知識と経験から日本の障がい者のアウトドアアクティビティの世界を作っている第一人者です。

彼女との出会いが私の考えていた「登山を盛り上げる」「山を愛する人を増やしたい」という考えがあまりに浅はかであることを気づかせ、考えを改めさせてくれました。感謝をしてもしきれません。

まずはじめに教えていただいたことが、登山を楽しみたくても障害をもっていることからチャンスすら与えてもらえないということ。

仮にできたとしても制度が整っていない現状ではすべてを自分たちで用意するしかなく大金が必要となるため、結果的にチャリティーの側面が強くなります。

そしてそれは本人が望む形であることが少ないということです。それは誰もが幸せになりませんし、数百万人いる車いす生活の方へネイチャーフィールドを提供できていない日本に失望した疑問を感じた瞬間でもあります。

より多くの人に山の魅力とネイチャーフォトを伝えたいと考え日本に帰ってきたのに、一切そこに目を向けていなかったのは業界に入ってからの最大の反省です。

8000m峰から岩登り、アルパイン、エクストリームネイチャー、色々やってきた経験も自分が、自分たちの狭いコミュニティが楽しむことだけを考えていたのでは生産ではなくただの消費。経験を活かせないのであれば何もない上にただの自慢・自己満足で、多くの人に山の魅力を発信する立場としては2流どころか3流以下だと実感しました。

現状の山のコンテンツを見ても多くの情報、コンテンツはの視点は五体満足な人たちを集めて盛り上がるものです。極論を言えば今現在山を楽しむことができる人たちのためのコンテンツです。

そんな今の日本の登山業界の現状を調査し、分析し、変えていく必要があると思いました。

事業に取り掛かるまで2年の準備期間

車いすでのアウトドア

「登山をする人を増やしたい」という考えはそのままに、目指すべきゴールを「誰もが山を楽しめる世界を作る」ことにシフトしました。もちろん登山の魅力を一般の方々に発信し人口を増やすことも大事です。業界が廃れてしまっては意味がありません。しかしそれは私が本腰をいれてやるべきことではないという考えになりました。

本来はアカデミックな立場であることに加えて、世界中の山を登りヨーロッパのバリアフリー環境を自分の目で見てきた自分だからこそできることがあると感じました。今回もCSRとしてのお手伝いにはなりますが私の本職に近いお仕事です。

Ata Allianceさんや信州大学の方々を始め関係者の方々が今回のプロジェクトを立ち上げるまで準備をするために2年の歳月を要しました。車いすの方をはじめ身体を動かすことが困難な方に山のコンテンツを提供するには、まず最初にアウトドアを安全に楽しめるためのウェアが必要であること。

過酷なアウトドアフィールドで車いすに乗車する障がい者の安全を守ることができるウェアを開発できる企業を探すことです。

真っ先に手を上げたのがfinetarck。障がい者専用のウェアを作る技術があることはもちろん、アウトドアを愛するすべての人の安全を守るという理念を有言実行していることが、今現在私がfinetrack製品を愛用している理由の1つでもあります。

車いすアウトドアは決して他人事ではない

車いすでの上高地散策

障がい者・高齢者の登山、ナイスネイチャーの満喫というと自分とは縁の無いことだと思う人が多いかもしれませんが、実はそんなことはありません。

車いすに乗りながらもアウトドアを楽しむという需要は増していく一方です。例を挙げるとヨーロッパなどでは車いす用のスキーに乗り、運転手に操縦してもらいながらゲレンデを楽しむというのは一般的なものです。高齢化社会では避けて通れない課題です。

そういった意味では日本はバリアフリー・障がい者アウトドアの分野では遅れていることは認めなければなりません。

もし仮に私が事故で身体が不自由になった場合、数十年後に歩けなくなった場合、山を楽しめるコンテンツがなかったら、それはクオリティーオブライフの観点から満足した余生ではなくなります。その時車いすながら上高地や乗鞍を散策できる、一定条件をクリアすれば3000m以上の稜線に出ることができる体制ができていれば、それほど嬉しいことはありません。

一般の方なら1年もトレーニングをすれば日本のどんな山でも登ることができるようになります。しかし車いすで山を楽しむには「どこまでクルマ椅子で安全にいけるのか」「宿や山荘の受け入れ体制」「安全を確保するためのルールや人材育成」…様々なことを1つずつ調査し、実践し、データを溜めなければいけません。それは個人の努力で成し得ることは困難であることから組織的の体制を作る必要があります。

スケールさせるためには草の根活動ではなく客観的データを収集でき、かつ効率の良い研究をする必要があります。そのために信州大学に協力し調査や研究、講師をしながら、アカデミック・行政の連携事業に携わることにしました。ネイチャーフォトグラファーとしての本職の撮影はありますがプライベートを投げ売って活動する価値は十二分にあると感じています。

車いすによる写真撮影の技術の確立、提供をしたい

身体が不自由な人のための撮影技術

基本的に山岳地域では専用の車いすに搭乗しライセンス取得したパイロットが車いすやスキーを運転することになります。そこで大事なことは車いすに乗る当人がしっかりとネイチャーフィールドを楽しめること。決してやらされている意識があってはいけないということです。あくまで本人が楽しむことが目的であるべきで、それを提供するサービスがあり、きちんと金銭を支払うことでビジネスとして成立する。

社会的な意義は大きいとは思いますがこれはボランティアではありません。あるべきではないと考えています。誰かに金銭的なしわ寄せが起こると事業が先細りしてしまいます。

そこで本人が楽しむためのコンテンツの1つとして、私の持つ撮影の技術や経験・知識をご提供することにしました。最初は今回のユニバーサルツーリズムの中核を担う方々を育成する立場で撮影技術の指南にすることになりますが、ゆくゆくはアクティビティを楽しむ方たちと同じ目線で撮影をしてみたいと思っています。

アイレベルが一般のフォトグラファーとは違う独自の世界観があり、私達が持っていない感性です。ネイチャーフィールドが当たり前ではない彼らが見る世界はきっと美しい。

それを表現するための技術と知識はフォトグラファーとしての経験で培いました。なにより私自身も大いに勉強できるのではないかと期待しています。アウトドアフィールドで写真を撮る、自宅でレタッチする、それを公開する。多くの人にとっては当たり前の作業と楽しみ方である写真の魅力を、ただ車いすということだけで叶わなかった方々にご提供できるように持てる技術のすべてを出したいと思っています。

それがネイチャーフォトであるということならば断る理由は何一つありません。そのために日本に帰ってきたのだから。

山岳観光資源を活かしたユニバーサルツーリズム

すべての人に山の魅力を発信する事業

クライマーとしての自分、写真家としての自分、研究者としての自分。そのすべてを使って貢献できる社会的意義のある事業であると思います。

外資の組織に属している立場なので大きな事業に関わるのは控えようかと思っていたのですが、今回の件に関しては方々からご指名頂いたこともあり頑張らせて頂くことになりました。社内稟議もばっちり通した。

まずはこれから始まる本格的な夏山シーズンを全力で駆け抜けてみようと思います。

ご興味があり受講条件を満たす方はぜひ。

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