教科書に載らない撮影技術。滝と渓谷を撮るための構図の作り方と追い込み方

大滝の特徴を捉えた写真

一眼レフと三脚を持っていて自然が好きなら当然滝や渓谷を撮りたくなります。そして多くの方が上手く写真が撮れずに挫折します。

これはネイチャーフォトを始めたばかりの人がかならず陥る問題です。普段慣れない撮影環境にも関わらず本やインターネットで得た知識は豊富にあることから起きるコンフリクトと呼ばれています。

例えば水の流れを表現するためにスローシャッターを使う。NDフィルターを使うという知識は持ちながら実際の経験値がないことが典型例です。「こう撮らなければならない」「この機材を使う」という枠にハマりすぎて、現地で余裕がなくなり構図や着眼点といった大前提にあるものが破綻します。

今回は滝や渓谷での水の表現や、良い構図で撮れるまでの追い込み方にスポットを当てます。ネイチャーフォトの書籍は構図と露出指南は圧倒的なボリュームがありますが、構図に行き着くまでの過程が抜け落ちているものも多く感じます。そこでケーススタディで撮影のスキームの一例をご紹介します。

いつものごとくヨーロピアン基準で経験則も織り交ぜているので馴染みがない撮影方法かもしれません。もっと国外のネイチャーフォトの技術に関することをご提供したいのですが仕事の写真はNGという悶々としたブログで申し訳ないです。

今回は北アルプスから離れてフィールドは奥多摩。東京の皆さんなら気軽に行ける山です。

滝の撮影方法~奥多摩・大滝~

奥多摩の大滝

奥多摩の白丸駅からアプローチできる海沢探勝路にある名瀑の大滝。立地条件のおかげで朝一に行けば人と遭うことは少ないです。見た目はすごいのに写真にすると大したことなくなる。その典型とも言える造りになっています。

滝の全体を捉えようとするとかなりの確率でつまらない写真になります。それゆえに「この滝をどうやって切り取ろうか」と多く人が悩む被写体です。取れる構図に悩むような被写体の場合「どこか特殊な撮影条件になる場所はないか」というアプローチをするのが滝撮影のコツです。その場の、その被写体にしか持たない特殊な条件を探します。

特殊な撮影条件を探す

これが大滝の持つ特殊な撮影条件です。滝の裏側から撮影が出来るということと、アンダー・オーバー・硬・柔の振れ幅の大きい撮影条件です。この条件を活かす構図に仕上げます。

大滝の特徴を捉えた写真
設定:24mm /ISO100 /S:2秒 /F:11

露出のアンダーとオーバーを思い切り出してあげることで大滝の特徴を出しています。また硬いイメージの岩肌と滝の水流が対照的にすることでメリハリがあります。ネイチャーフォトの1つの基本テクニックとして「遠近感の演出」も若干取り入れています。

滝・滝壺・川まで含めた構図ならば遠近感を出すことができますが、滝自体には遠近感がありません。滝単体を撮影するのならば横にずれたり裏に回ったりして距離感を出すことも1つのテクニックです。

滝の水流の露出をオーバーにして質感をなくすことを良しとしない意見もありますが、私はそこにこだわりを持っていません。作風の幅を狭くするだけですし、意図的に起こしているならアンダーもオーバーもテクニックだと思っています。

滝の撮影方法~奥多摩・百尋の滝~

百尋の滝

川苔山へのアプローチ途中にある百尋の滝。自家用車でのアクセスが不便なため人が少なく良いコースです。この滝は岩壁に囲まれているため構図を作る選択肢が少ない被写体です。普通に撮影すると上記画像のようなものか、これの縦の構図にしたものでしょう。

大滝と同じように、普通の構図で選択肢がなければやはり特殊な環境であることを上手く利用します。百尋の滝の特徴は滝壺まで歩いて入れるということです。

百尋の滝の撮影方法

設定:26mm / ISO100 / S:2秒 / F18

この滝の特徴を写真で表現するとこのようなものなりました。キーポイントはパースと放射状です。

被写体の放射線配置

放射線構図と配置

写真の基本構図として放射線構図があります。ある一点から(消失点)伸びるパースの線にしたがってラインを作ると構図が安定するというテクニックです。これは写真を撮影してるみなさんならご存知のテクニックです。

その発展形として、オブジェクトの放射線状配列というテクニックがあります。日本で馴染みがあるのかはわからないです。人工物でスタジオフォトならば簡単につくれる状況ですが、ネイチャーフォトに関してこのテクニックを使える機会はそうそうありません。…滝を除いては。

滝は水流・岩肌・樹の3要素によって構成されることが多く、水の出どころが狭いほど水流は広がっていきます。この条件を満たしている時に広角で被写体によってワーキングディスタンスを短くし、仰望(下から見上げる)することで強烈なパースがかかり、放射線構図と放射状配列が成り立ちます。

パースがかかり遠近感の演出とダイナミックさが出るけれども、放射状配列によってオブジェクトに規則性が出るため安定した構図となります。

渓谷の撮影方法~奥多摩・海沢探勝路

海沢探勝路

次に渓谷の沢などの撮影方法です。フィールドは奥多摩の海沢探勝路。滝と渓谷の撮影技術を磨くために必要なものがすべてある日本屈指のスタディーポイントです。海沢探勝路先生に鍛えられたネイチャーフォトグラファーは多いのではないかと思います。渓流遡行の技術もここで学びました。

基本的な考えは滝と一緒なのですが主題に出来るものが多いのが難点です。俗にいう「なにがしたいのかわからない」という写真になりがちです。家に帰ってレタッチするときに「なんでこんな写真撮ったんだろう」と思う人も多いと思います。

渓谷の特徴

  1. 川(沢)がきれい
  2. 岩に苔が生えていてきれい
  3. 緑に囲まれていている雰囲気
  4. 小さい滝ともいえるものがある

これらの要素が複雑に絡み合い「総合的に美しい」というのが渓谷の魅力であると同時に撮影の難易度を跳ね上げている要因です。更にここでネイチャーフォトの経験がない人は知識と経験のコンフリクトを起こします(水流=NDフィルター、反射面と彩度=C-PLフィルターなどの知識はあるが未経験)

「彩度を上げれば良くなるはず」「水の表現をなめらかにすればいい」のようなテクニカルなもので解決しようとする傾向が強く、構図を追い込むという基本を忘れてしまいがちです。

写真は引き算という考えの基本はネイチャーフォトでも同じ

主題は1つにすることで渓谷はキレイに撮れる

ぱっと見で気になる大きい岩と小滝の組み合わせを標準62mmで切り取ってみました。無骨は岩肌と滑らかな水流、それを囲む緑の雰囲気は残っていると思います。コンセプトも分かりやすいです。このように広角で試しに撮影してみてから画角をもう1つ踏み込んでみるというアプローチは有効です。

ネイチャーフォトのコツは自分の目で見た景色ではなく、撮影した画像を見て何が主題・副題なのかを確認することです。専門でやっている私でも最初は何を撮ればいいのか分からずに、感覚で撮影した画像をプレビューで確認して、一番最初に目についたものを主題にして望遠で切り取っていくというスキームを組むことがあります。

コツとしてはまず持っているレンズで一番広角なもので撮影を開始して、徐々に標準・中望遠を使って要素を切り取っていくことです。

初心者の方にネイチャーフォトを教えるときは「自分がいいと思った構図からもう1つ踏み込むか、引くかしてみるといい」とアドバイスをさせていただいています。良い構図も悪い構図も経験してもらって、偶発的に撮れた写真を分析して構図のもつ意味を知ってほしいからです。それを自分で理解して落とし込んで初めて技術として活きてきます。

構図によって優先度を明確化させる

構図によって複雑な要素をまとめる

要素を引き算していくのは基本であり王道ですが、もう一つ方法があります。
それは理詰めで構図を作り上げることです。複数の構図を組み合わせたり応用して主題の多い渓谷の要素に力技で優先順位をつけていくやり方です。気づけば誰にでもできますが、ぱっと見でこのロジックを組み立てるのは難易度的にはプロ寄りになります。

滝と渓谷の撮影技術を一括りにまとめたのは、滝(小)・川・緑の放射線を利用した手法が渓谷でも使いやすいからです。

放射線状+放射配列+3分割の複合構図

構図を組み合わせる

まずは構図を3分割して、川と小さい滝をきっちり分けます。3分割の面積の方が多い方が主題となりますが、それだけだと協調性が弱くどっちが主題で副題になるかが明確になりません。

主題と副題と奥行き表現

そこで3分割ラインの上に放射線の消失点を置くことで主題の強みを増します。下2/3を使って放射線に川を配置しているので、この写真の主題は川・副題は滝という位置づけにします。またのっぺりとした写真にならないように分割ラインを利用しての奥行き表現も同時に行います。

最後の岩・樹の領域は、放射線構図で安定性はとっているものの、三分割ラインに載っていないので嫌な強調をしてくることはありませんし、放射配列によって滝の左右を緑で囲むように配置されているので安定感があります。

渓谷と滝の撮影は特殊な環境であることが多い

このように渓谷と滝は構図の自由度が低いことで、撮影者の心理をテクニカル方面に向かせることが多々あります。しかし観察を続けると面白い構図が取れそうな条件が整っている場所があります。

教科書に載っているようなテンプレート的なものが当てはまることはまずありませんが、複数の構図を組み合わせることで対応可能なシチュエーションもあります。ネイチャーフォトを上手く撮影したい人は構図を暗記するのではなく、構図の持つ意味を理解して応用ができるようにしておくとよいかと思います。

滝や渓谷の撮影で必要な機材

機材ありきで撮影に望むとまず失敗しますが、構図が決まり良い写真を撮影するためには必要なものがあります。それをご紹介します。

フィルター

NDフィルターとPLフィルターはネイチャーフォトには必要不可欠なものです。
PLフィルター

必要なフィルター

  1. NDフィルター:レンズに入る光量が落ちるためシャッタースピードを遅く出来る
  2. PLフィルター:水のテカリなどの反射面をおさえることができ、全体的な彩度も上がる

私はNDフィルターとPLフィルターの重ねて使うこともあります。広角レンズではケラレ(四隅が暗くなる)ことがありますが、画作りの手段として覚えておくと便利です。ただしレンズに入る光が少なくなり、ファインダーが暗くなるためピントの位置がわからなくなることがあるため、使用する際はピントを取ってからがいいでしょう。


三脚とレリーズ

三脚

滝や川の撮影は基本的には三脚ありきです。
どんな川も滝もハイスピードでシャッターを切るパターンとスローシャッターを使う2種類をみんな撮影すると思います。

また少しのブレも出さないためにレリーズケーブルを使用します。三脚を不安定な位置に設置するとき、シャッターを押し込むことで動いてしまうことがあります。ネイチャーのフィールドで使うなら持ち運びのよいカーボン製のものがおすすめです。

私はVelbonのカーボン製の三脚・雲台を愛用しています。


観察をよくして楽しい滝や渓谷のネイチャーフォトを

以上が私が実践している滝・渓谷での撮影スキームでした。いきなり構図を決めるわけでなく、周辺環境を合わせてひたすら観察します。その中で他にはない特徴を見つけ出して撮影に応用します。

また困ったときに助けになるのが基礎知識。基礎がわかっていれば何にでも応用ができます。

撮影した滝や渓谷の写真を販売するレベルまで追い込むレタッチ方法はこちら。実際に仕事で使用しているレタッチ技術です。

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